東大,「ねじれ」で量子トンネル確率を自在に制御

東京大学の研究グループは,量子トンネル効果を100%に近い確率で誘起する幾何学的効果の実証に成功した(ニュースリリース)。

1932年に発表されたランダウ・ツェナー(LZ)モデルは,量子二準位系における障壁の制御速度と量子トンネル確率を結びつけるもので,今日でも量子制御の基本モデルとして役に立っている。

今回研究グループは,LZモデルに幾何学的な“ねじれ”効果を取り入れた新しい「ねじれランダウ・ツェナー(TLZ)モデル」を実証することに世界で初めて成功した。

研究グループは,ダイヤモンド中の単一の窒素空孔中心の電子スピンを量子二準位系として利用し,この幾何学的効果を世界で初めて実証した。マイクロ波パルスを調整することによって駆動場における幾何学的効果を制御し,量子トンネル確率を精密に測定した。

その結果,予言されていた駆動場の向きに依存する量子トンネル確率を実験によって検出することに成功した。制御する方向によって量子トンネル確率の振る舞い方が異なることは,これまでのLZモデルでは生じえない,興味深い新現象だという。

また,駆動場の速度やねじれによって量子トンネル確率を自在に制御できることも分かった。特に,さまざまな駆動場において完全トンネルを詳しく調べ,平均95.5%という高い確率で量子トンネル効果を実現した。

通常,量子的な状態は確率的な振る舞いをするため,思い通りに制御することは難しいが,工夫次第で100%近い確率で状態を制御できるという事実は重要だとする。さらに,今回の実験を通して,理論で調べられていた範囲よりもずっと広い条件で幾何学的効果が大きな役割を果たすことも分かった。

この成果は,古くから知られるLZモデルに新手法を導入することによって,量子トンネル効果を高確率で実現できることを実証したもの。

研究グループはこの成果について,様々なエネルギースケールの量子系で普遍的に生じるダイナミクスの理解やその制御方法を提示し,量子コンピュータ,固体中のキャリア制御,核磁気共鳴など,量子制御分野の今後の研究に幅広く貢献するものだとしている。

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