東京工業大学と東京大学は,3次元π共役分子の中でも合成が困難とされる,メビウス型芳香族ベルトの不斉合成や,巨大なアーチ型芳香族ベルトの合成を達成した(ニュースリリース)。
ツイスト芳香族ベルトは,メビウスの輪のような複雑なトポロジーを持つ環状のπ共役分子。ねじれた分子の帯に特有の芳香族性やキラリティを持つことから,次世代の機能性有機材料への応用が期待されている。
しかし,芳香環をねじろうとすると大きなひずみエネルギーが発生するため合成は極めて難しく,360度以上の高度なねじれの構築や,ねじれの方向制御に課題が残されていた。
そこで研究グループは,直線形の芳香環パーツと馬蹄形の芳香環パーツを組みあわせた基質デザインを新たに設計した。「ねじれの構築」と「巻き戻りの抑制」をそれぞれ別々の芳香環パーツに担わせる設計により,複数回のねじれを持つツイスト芳香族ベルトを安定に合成することが可能となる。さらに,ねじれの方向は不斉ロジウム触媒によって精密にコントロールされるよう設計した。
開発した合成法において,研究グループが開発した不斉ロジウム触媒反応を用いることで,最大で540度のねじれを持つツイスト芳香環ベルトの不斉合成を達成した。さらに,合成した分子の単結晶X線構造解析の結果,ねじれの大きさや方向によって,3回ねじれを持つメビウス構造や巨大なアーチ型構造などの多彩な3次元構造をとることを明らかにした。
この研究成果の複雑なトポロジーを持つ芳香族化合物は,従来の有機分子にはない特異な光学特性や電子特性を示す可能性を秘めており,広範な機能性有機材料の創製に貢献できると期待されるという。
また,この研究では不斉ロジウム触媒を用いることで分子のねじれ方向が制御できることを示した。これは未開拓なツイストキラリティの化学を切り開く成果であり,円偏光発光材料や3次元ディスプレーといったキラル光学材料への応用が期待されるとしている。