東京大学の研究グループは,液体の構成粒子を異方的な形状にした系の大規模分子動力学シミュレーションを行ない,分子性液体がガラスとして固まる直前の運動メカニズムの全容を解明し,理論研究と実験研究の橋渡しとなる成果を得た(ニュースリリース)。
ガラスは液体を急激に冷やすことで出来上がる。ガラスとして固まるガラス転移の直前では,液体分子は様々な時間スケールで複雑な運動をしている。これまでの数値研究は,液体の構成粒子を球や円盤などの等方的な形状をした粒子で単純化することが専らだった。
しかし,分子性液体の実験で幅広く観察されてきたJohari-Goldstein β緩和と呼ばれる過程は等方粒子で捉えることができず,単純化の代償として当過程がどのような分子運動に相当するのか理解が進んでいなかった。
理論的には2段階の階層的なポテンシャルエネルギー地形による解釈が四半世紀以上前に提唱され,研究コミュニティに広く受け入れられてきたが,同様の理由によりこの解釈の数値的な証拠を得ることは出来なかった。この状況は,現実の分子が示すガラス転移を説明する理論に対する,大きな不満となっていた。
研究グループは,液体の構成粒子を異方的な形状にした系の大規模分子動力学シミュレーションを行なった。長時間と短時間で発生する運動がそれぞれ分子の回転と並進運動に起因することを明らかにし,これらの運動に明瞭な実空間的理解を与えた。理論的に重要なエネルギー地形描像に関しては,2段階の階層構造が上記の2つの過程を生み出すことを数値的に示し,提唱から25年以上経過した理論の正しさを証明した。
今回,上記に挙げた運動の実空間描像とエネルギー地形描像の双方の課題を解決した。この研究によって,実験的に観測されてきた運動の理論的な位置付けが明瞭になり,ガラス転移研究における実験と理論の協同がこれまで以上に深化することが期待される。
研究グループは,これにより基礎理論の適用範囲を拡張する道が開け,将来的には現実世界に存在する多様なガラス的材料の制御や設計に貢献することが期待されるとしている。