日本電信電話(NTT)は,32GHzにわたる超広帯域幅を利用したOAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)多重伝送を実現し,1.44Tb/sの大容量無線伝送に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
無線通信の容量を増大するためには,空間多重数の増加,伝送帯域幅の拡大,変調多値数の増加の3つの方向性がある。これらの内,同社はサブテラヘルツ帯を用いて伝送帯域幅を拡大するとともに,軌道角運動量(OAM)を持つ電波を用いた新しい原理により空間多重数を増加させることで,無線伝送の大容量化を図っている。
OAMとは,電波の性質を表す物理量のひとつであり,OAMを持つ電波(OAM波)は,同一位相の軌跡が進行方向に対して螺旋状になる。OAM波は同じ螺旋構造をもつ受信機でのみ受信できる。この特徴を利用して,複数の異なるデータを同時に伝送するのがOAM多重伝送技術。
同社は,Butler Matrixと呼ばれるアナログ回路(Butler)を用いて複数のOAM波を多重処理し,空間多重数を増加させるアプローチをとっている。このアプローチでは,1Tbを超える大容量通信において,異なる螺旋構造に対応する電波間の干渉を除去するための膨大なデジタル信号処理を低減することができる。
今回,サブテラヘルツ帯導波路技術の研究開発を推進し,広帯域かつ低損失で動作するアンテナ一体型Butler回路を開発した。このアンテナ一体型Butler回路は,135GHzから170GHzの非常に広い帯域で,8個の異なるOAM波を同時に生成および分離し,8個のデータ信号を多重して伝送することができる。
また,異なる2つの偏波でそれぞれOAM多重伝送を行なうことで,互いに干渉することなく2倍の16個のデータ信号を同時に多重して伝送できる。このアンテナ一体型Butler回路を用いて伝送試験を実施し,135.5~151.5GHzと152.5~168.5GHzのサブテラヘルツ帯を用いて合計1.44Tb/sの大容量無線伝送に世界で初めて成功した。
これは,4K動画(40Mb/s程度)約35000本,超低遅延が必要なアプリケーションにおける非圧縮4K動画(10Gb/s程度)を140本以上同時伝送可能となる速度。NTTでは今後,100mを超える長距離での実証実験に取り組んでいくとしている。