九州大学,京都大学,産業技術総合研究所,東京理科大学,英ダラム大学は,発光ラジカルの1つとして知られているTTMラジカルに対して,樹状高分子(デンドリマー)を結合させることで,TTMラジカルの発光効率を2%から63%にまで向上させ,赤色発光させることに成功した(ニュースリリース)。
発光を示す有機分子のほぼ全てが偶数個の電子を持つ。奇数個の電子を持つラジカルは一般的には不安定であり,発光性を示すことも少ない。電子を受け取りやすい発光ラジカル(TTMラジカル)に対して,電子を与えやすいドナー分子を結合させることで,TTMの発光性と安定性の向上することが報告されている。
通常の分子は基底状態で一重項であり,励起状態は一重項と三重項の状態。有機EL素子を100%の効率で発光させるには,一重項と三重項の励起分子の両方を活用しつつ効率的に光を放出させながら基底状態に戻す必要があり,特別な分子設計が必要だった。
一方,発光ラジカルは有機ELの発光材料として使用すると高効率であることが期待できる。発光ラジカルは基底状態が二重項という不対電子を持つ状態であり,発光に関与する励起状態も二重項となる。
有機EL素子内でも生じる励起分子の100%が二重項となるため,従来材料と比較して単純な機構で100%の効率を実現できる。しかし,発光ラジカルは光照射下で分解が進行するなど不安定であり,高効率な発光の報告例もほとんどなかった。
研究グループは,ドナー分子として知られているカルバゾール骨格を繰り返し単位としたデンドリマーを発光ラジカルに結合させれば,非対称な分子構造のために発光効率と安定性が向上すると考えた。
実験の結果,結合するデンドリマーのサイズ(世代)を大きくしていくと一度発光効率が低下した後に上昇することが明らかとなった。この際に発光波長も長波長シフトした後に短波長シフトする。一般的にはπ共役系の広がった大きなドナーを結合させると,発光波長が長波長側に推移する。
発光波長のデンドリマーサイズ依存性を検討したところ,デンドリマーのサイズが大きくなるほど電子が非局在化しやすく,電子間反発が小さくなることが原因と分かった。
これは,巨大なデンドリマーをラジカルに結合させたことで生じた効果で,いままで報告がなかった。光安定性を調べる実験の結果,デンドリマーを結合することで光照射下での分解速度が1/1000以下になり,安定性が高くなることが示された。
これにより,赤色―近赤外で高効率なデバイス開発が期待される。研究グループは,高効率で安定性の高い発光ラジカルの創製や,必要な発光波長のラジカルのデザインにも寄与するとしている。