東工大ら,圧力で変化する励起子増幅過程を解明

東京工業大学と慶應義塾大学は,分子に吸収された光子数の2倍の励起子を生み出す“一重項分裂”の速度や効率が,分子周囲の溶媒や圧力によって変化することを実証した(ニュースリリース)。

一重項分裂は光エネルギーを効率的に化学エネルギーもしくは電気エネルギーへと変換する光物理過程(例えば太陽電池)として,近年注目を集めている。また,基底状態では三重項の酸素分子を一重項酸素と呼ばれる極めて活性の高い酸素へと変換することができるため,がん治療のひとつである光線力学療法への応用展開が期待されている。

一重項分裂は非常に魅力的な光物理過程ではあるものの,一重項分裂が可能な分子は,エネルギー条件を満たしたペンタセンやテトラセンなどのごく一部の有機分子に限られる。これまでの研究の多くは,これらの有機分子を組み合わせた効率的な一重項分裂を示す有機分子の探索が行なわれていた。

一方,溶液系における分子内一重項分裂に関しては,ここ数年特に注目を集めており,分子の配向性や構造自身を変化させる戦略が一般的であった。

今回の研究では,外部刺激に着目し,溶液中のペンタセンダイマーの一重項分裂に対する溶媒および静水圧の影響を検討した。その結果,極性を持つ溶媒を用いたペンタセンダイマー溶液においては,加圧によって一重項分裂が促進されることが見出された。また,過渡吸収測定によって励起状態について詳細な検討を行なった。

その結果,圧力という外的刺激による溶液中での一重項分裂の制御を達成した。これにより,これまで非常に魅力的な光物理過程でありながらも,実用化に向けては停滞気味であった生体環境下でのがん治療の一つである光線力学療法をはじめとした医療分野への新たな切り口となる可能性が高いとする。

研究グループは,身の回りにありふれた光エネルギーの効果的かつ容易な変換プロセスとして,新たな発色団の分子設計や効率化に向けた指針に成り得るだけではなく,溶液中での有機化学反応や新たな光反応などエネルギー・通信分野への展開が期待されるとしている。

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