東大ら,木材由来の透明な高強度・耐火板材を開発

東京大学,海洋研究開発機構,東レリサーチセンターは,木材由来のセルロースナノファイバー(CNF)から,透明かつ高強度の板状材料を形成することに成功した(ニュースリリース)。

材料科学において,高い耐荷重性を有する透明な構造材料の開発が課題となっている。コンクリートや金属など一般的な建築物や輸送機の構造部材は光の散乱あるいは吸収により不透明であり,建築物や輸送機器の構造設計に制約を生んでいる。

また,ガラスや透明プラスチックは採光性の面材として使用されるが,力学強度が低く,構造材料としては適用されない。したがって,透明かつ高強度の構造材料が開発できれば,建築物の採光性や輸送機器の視認性を高める,新たな構造設計の実現に繋がる。

さらに,持続可能な資源の活用も材料科学の課題となっている。近年,ナノ素材であるCNFが注目を集めている。CNFの水分散液を乾燥させると,透明な紙とも呼ばれる,ガラス並に透明なシートを形成できる。

この透明CNFシートは,プラスチック並に軽量で金属並に高強度であるため,透明な構造材料としての活用が期待できる。しかし,CNFシートは希薄な分散液から形成するため,厚さ数十µmの薄膜となり,構造利用に足る厚み(数mm以上)の材料を作ることができない。この成膜プロセス上の課題が,構造用途での活用を妨げていた。

そこで研究では,CNF薄膜を多重に積層して接着し,厚みのある板状CNF材料を形成した。CNFシート間の接着には,シート性能の低下を招いてしまう既存の合成接着剤ではなく,CNF自身の自己接着性を活用した。すなわち,得られた積層体はオールCNF材料となる。

このプロセスによって,1mm厚の透明CNF板材を作製することに成功した。積層数を増やすと更に厚いプレートが作製でき,成形して曲げ・ねじり構造も形成できる。CNF板材の強度は,アルミニウム合金やガラス繊維強化プラスチックなどの軽量構造材料と同等であり,CNF板材はさらに軽量となる。

また,この板材を強力なバーナーの炎に30秒間さらしても,板材に穴は開かず,瞬時に自己消火する。加えて,CNF板材は面方向と厚み方向で異なる熱伝導性を示し,面方向はガラスより高伝熱性で,厚み方向はガラスよりも低伝熱性。さらに,CNF材料の共通課題である吸水性に対し,CNFの表面化学構造を制御すれば,劇的に低減できることも実証した。

研究グループは,これらの特性を兼ね備えた透明CNF板材は,木材を活用しつつ,採光性や視認性に優れた建築物や輸送機などの新たな構造設計に貢献することが期待できるとしている。

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