浜松ホトニクスは,高輝度大型ハドロン衝突型加速器(HL-LHC)実験におけるCMS実験装置に向け,高放射線耐性で高エネルギー物理学用途では世界最大のフォトダイオード(PD)アレイである「8インチピクセルアレイディテクタ」を開発するとともに量産体制を確立した(ニュースリリース)。
この製品は,ガンマ線や電子などの放射線のエネルギーを測定する,高エネルギー物理学用途では世界最大となる高放射線耐性のPDアレイ。PDアレイは,放射線が入射すると感度が低下する。高電圧をかけることで感度の低下を抑えることができるが,これは通常,破損の原因となる。
欧州合同原子核研究機構(CERN)では現在,ヒッグス粒子の精密測定や未知の物質であるダークマターの探索などに向け,陽子同士の衝突頻度をLHC実験より高めたHL-LHC実験の準備を進めている。
初期宇宙の状態を再現するHL-LHC実験において,この製品を透過する放射線の量は1cm2あたり中性子換算で1.5京個分にも上るが,このような過酷な放射線環境下においても特性を維持することが求められる。
同社は,800Vの高電圧をかけても動作する,高放射線耐性で直径が6インチのウエハーから一つだけ作ることができる大面積のPDアレイの試作に成功したが,デッドスペースやコストを削減するため,CERNからはさらなる大面積化が求められていた。
今回,より面積の大きいウエハーを材料として使用するため,直径が8インチのウエハーに対応した製造装置を新たに導入するとともに,これまで培ってきた光半導体素子の製造技術を応用し,製造条件を一から見直しウエハー上に形成する膜の厚さや不純物の濃度などの均一性を高めた。
この結果,従来と同等の高放射線耐性ながら,PDアレイの面積を約2倍まで大型化することに成功した。同時に,PDアレイのすべてのチャネルを検査することができる専用の検査装置を新たに立ち上げることで,HL-LHC実験で求められる高放射線耐性,大面積化に対応した製品の量産体制を確立した。
この製品は,2月27日より本格供給を開始する。同社ではHL-LHCに向けて2025年の夏ごろまでに27,000個を完納することで,ヒッグス粒子の精密測定やダークマターの探索などの新たな研究に貢献できると期待している。