大阪大学と岡山大学は,ユーロピウムと金とビスマスからなる磁性半金属において,磁気秩序と極性構造歪みの両者を伴う超伝導を世界に先駆けて発見した(ニュースリリース)。
新しい超伝導体の開発は産業応用だけでなく基礎研究の観点からも重要であり,標準理論であるBCS理論を超える特殊な超伝導状態の探索も進められている。例えば,典型的な超伝導は,磁性や極性とは相性が悪いと考えられていたが,近年それらの性質が活かされた新しいタイプの超伝導状態を示す材料が見つかりつつある。
研究グループは,ユーロピウム(Eu)と金(Au)とビスマス(Bi)からなる磁性半金属EuAuBiの単結晶合成に成功し,4Kでの反強磁性転移と2.4Kでの超伝導転移を観測した。EuAuBiは,磁性を担う層と極性をもたらすハニカム格子層が交互に積層した結晶構造を持っており,磁気秩序と極性構造を有しながらも超伝導を示す。
さらに超伝導転移温度は表面敏感であり,同一試料において結晶表面を研磨することで変化する。この物質の超伝導特性を詳細に調べるべく,外部磁場を面内と面間方向に印可した場合での超伝導転移温度の変化を0.1K付近の極低温まで測定した。
その結果,面間磁場において従来型超伝導体で期待されるパウリ極限を大きく超える10Tの超伝導臨界磁場が実現する一方で,面内磁場の場合にはそれが3T程度であり,臨界磁場に大きな異方性があることを明らかにした。
さらに第一原理計算から,Biのp軌道由来の強いスピン軌道相互作用と極性構造を反映し,フェルミ準位近傍のバンド構造においてラシュバ型のスピン分裂が実現していることを見出した。また,Biのp軌道とAuのs軌道の混成に起因したギャップ構造の存在から,トポロジカルなバンド構造の存在も示唆された。
そのため,パウリ極限を超える大きな臨界磁場とその異方性は,トポロジカル表面での超伝導の可能性や,強いスピン軌道相互作用に起因したラシュバ型のバンド構造を反映したものである可能性を示唆しており,EuAuBiは新しい非従来型超伝導を示す系であることが期待されるとする。
このEuAuBiは,非常に強い磁性をもったユーロピウムを内包しているだけでなく,ビスマスや金といった重元素からなる極性構造を有しており,これらが伝導電子に作用することで,磁場などの外場に対して特殊な安定性を示す新しいタイプの超伝導となっている可能性があるという。
研究グループは,この成果が量子コンピュータのための超伝導素子などの革新的電子デバイスへの応用につながることが期待されるとしている。