山形大学の研究グループは,IXPE衛星によってベラパルサー星雲から究極的に強く偏光したX線の観測に成功した(ニュースリリース)。
太陽よりも数十倍重い星は,一生の最後に大爆発を起こす。この爆発の中心部には,非常に高密度(地球の数100兆倍)かつ強磁場(地球の地磁気の約1兆倍)な中性子星が形成される事がある。
このような中性子星は高速で回転しており,この回転エネルギーと磁場のエネルギーを使って周囲に電荷を持った粒子を放出する。この荷電粒子は,爆発で吹き飛んだ周辺の物質にぶつかり,X線などの非常に高いエネルギーの電磁波を放出する事が知られている。
そのためパルサーの周りには,X線を放出するパルサー星雲と呼ばれるものがよく観測される。今回IXPE衛星が観測したVelaパルサー星雲は,今から約11000年前に爆発した天体の残骸であり,ほ座(南半球からしか観測できない星座)の方向に,地球から約1000光年近くかかる距離に位置している。
パルサー星雲から放出されるX線は,残骸の中にある磁場と荷電粒子がぶつかって絡みついている最中に放出されたものだと考えられている。しかしその磁場がどのようにしてできたのか,またどの程度綺麗に磁場が揃っているのか詳しい事はまだ分かっていない。
磁場が揃っているほど偏光度が高くなるはずであることから,このような磁場の情報を知るための強力な手段として偏光の観測がある。しかし今までX線の偏光が測定されたパルサー星雲は,カニ星雲という天体だけであり,その星雲全体の平均的な偏光度は精々20%程度だった。
そのため今回のベラパルサー星雲の場合もその程度の偏光度になると当初予想していたが,実際の観測結果はこの予想を覆し,平均的な偏光度は45%とカニ星雲に比べ2倍以上強く,さらに領域を絞って見た場合,60%を超える様な領域がある事が発見された。
このような予想を超える結果が得られたために,IXPEチームの中で幾つものグループが独立にデータ解析を行なったところ,研究グループは,間違いなくこのように強く偏光したX線が放出されていることを確認した。
IXPE衛星は今後さらに新たなパルサー星雲についても調べる予定であり,研究グループは,今回分かったよく揃った磁場の起源が何に関連しているのかより深く研究を進めていくとしている。
なお,IXPE衛星はX線の偏光撮像が行なえる世界初のX線観測衛星で,米と伊が主導する国際共同プロジェクトであり,日本からも山形大学,広島大学、理化学研究所,大阪大学,千葉大学,名古屋大学,東京理科大が参加している。