理化学研究所(理研),東京大学,榊原記念病院は,胸部X線(レントゲン)画像から患者の年齢を推定する人工知能(AI)モデルを開発し,その臨床的有用性を明らかにした(ニュースリリース)。
近年,深層学習(ディープニューラルネットワーク)の発展により,磁気共鳴画像法(MRI)などの医療画像から推定した年齢が,心疾患の併存率などに関連していることが報告されている。また,頭部MRI画像から年齢を推定するAIモデルは,推定した年齢が将来の認知症発症頻度に関連することが報告されている。
胸部X線(レントゲン)は最も多く行なわれる医療画像検査の一つだが,胸部X線画像から患者の年齢を正確に推定することができるか,医師による推定と比較して精度が高いのか,推定年齢と実年齢との差が与える心疾患への医学的な意義は十分に分かっていなかった。
そこで研究グループは,10万枚以上のX線データを用いて,胸部X線の正面画像1枚のみから患者の年齢を推定するAIモデルを開発・検証した。
日本人の胸部X線データを用いてAIモデルの精度を検証したところ,平均絶対誤差4.95歳,推定年齢と実年齢の相関は0.916と高精度に年齢推定可能なことが分かった。また,医師による年齢推定精度は,平均絶対誤差10.9歳,推定年齢と実年齢の相関は0.698とAIモデルの精度に及ばなかった。
このAIモデルにより推定した年齢,すなわち「X線年齢」が持つ臨床的意義を調べるため,データ患者の病歴や予後との関連を解析した。その結果,胸部X線画像に胸水や線維化などの異常所見を持つ患者では,X線年齢が実年齢よりも高齢に推定されることが分かった。
また,心不全患者のデータベースを用いて,入院時のX線年齢を算出し,X線年齢と患者の併存疾患との関連を検討した。その結果,高血圧症や心房細動・心房粗動を持つ患者では,X線年齢が実年齢よりも1歳程度高齢に推定されることが明らかになり,X線年齢が胸部X線画像の異常所見や患者の隠れた合併症を推測するのに役立つ可能性が示された。
また,X線年齢と心不全患者の予後との関連を検討したところ,X線年齢が実年齢よりも高齢に推定された患者では,心不全による再入院および死亡率の頻度が有意に高いことが明らかになった。これはX線年齢が併存疾患の指標だけでなく,寿命にも関連することを示唆する結果だという。
研究グループはこの成果が,胸部X線の新しい活用方法およびX線年齢という新たな健康指標の有用性を示すものとして,臨床での応用が期待できるとしている。