東北大学と理化学研究所は,グラフェンを使って,室温で動作する高速応答かつ高感度なテラヘルツ波の検出に成功した(ニュースリリース)。
電子デバイスや光デバイスの開発において,テラヘルツ帯での動作は困難を極めてきた。特に,6Gや7Gに不可欠な,室温で動作し小型集積化が可能で高速応答かつ高感度なテラヘルツ波検出素子の実現には,さらなる性能向上が求められている。
そのような中,グラフェンによる光電熱型検出素子ではプラズモン型を上回る高速応答性能が得られている。しかしながら,現在知られている光電熱型検出素子は,電子・正孔の両方が寄与する複雑なバイポーラ構造でかつ素子を構成する2つの電極に異種材料を用いなければ起電圧が生じず,高性能化と量産化・低コスト化の両立が難しい。
研究グループは,グラフェンのプラズモンが他の半導体材料に比べてテラヘルツ波光子と相互作用する効率が格段に高いことに着目し,グラフェンプラズモンをテラヘルツ波と効率よく結合できる「非対称二重回折格子ゲート」と呼ばれる独自のトランジスタ電極構造を導入したグラフェントランジスタを試作した。
試作素子の直流電圧-電流特性はグラフェントランジスタ特有のアンバイポーラ特性を示しており,ヒステリシスも小さいことから,良好なグラフェントランジスタとして動作していることが分かった。電流が極小となる電圧点(電荷中性点)は負の値を取っており,チャネル全体が正にドープされていることを示している。これは製造プロセスに起因するドープと考えられるという。
このトランジスタに対して,トランジスタのドレイン端子から出力される光起電圧の時間応答波形を室温下で測定した結果,入力テラヘルツパルスの時間波形に追従する出力光起電圧応答波形を,10psオーダーの非常に高速な応答性で確認した。また,プラズモン型検出機構では説明できない,光電熱効果による整流検出機構の発現が示唆された。
電子のみが寄与するユニポーラ型で,かつソース・ドレインの両電極を同一種の金属材料で形成した最も単純なFET素子構造においてテラヘルツ波の検出に成功したことは大きな発見だとする。
内因的電流検出感度および雑音等価電力のドレインバイアス依存性を算出した結果,最大で0.3 mA/Wの検出感度ならびに166 nW/√Hzの雑音等価電力を得た。これは,これまで報告されたグラフェン・テラヘルツ検出素子を超える性能だという。
今回,量産化可能なSiC基板上エピタキシャルグラフェンをもとに,標準的な半導体デバイスプロセス技術を用いて検出素子を作製しており,研究グループは,次世代超高速無線通信に用いられる,室温動作可能で高速・高感度なテラヘルツ検出素子の実現が期待されるとしている。