京大,小分子の体内での移動を可視化する方法を開発

京都大学の研究グループは,医薬品の多くを占める小分子が実際の動物体内でどのように移動するかを明らかにする新しい方法を開発した(ニュースリリース)。

医薬品候補となる分子の多くは小分子という分類に属しているが,これまで小分子が動物体内でどのように移動するかを調べる方法は限られていた。

そこで研究グループは,小分子の生体内移動とタンパク質への結合を可視化する手法としてFixEL法を考案した。はじめに対象とする小分子にアミノ基と蛍光色素を連結し,この分子を実験動物のマウスに投与したのち,ホルマリン漬けにも使われるパラホルムアルデヒド(PFA)を全身に処理することで,組織の固定と同時に,小分子のその瞬間の位置を蛍光色素とともに体内に固定することができると考えた。

また,薄切りにした組織のどこから蛍光が検出されるかを共焦点レーザー顕微鏡で調べることによって,小分子のある瞬間の位置をマイクロメートルの解像度で解析できるようになると期待した。

まず本グループはマウスの脳に豊富に存在するタンパク質に結合する小分子の分布を,FixEL法によって画像化できるか調べた。薄切りにした脳組織を共焦点レーザー顕微鏡で蛍光観察した結果,今回の標的小分子が結合するmGlu1が豊富に存在する小脳分子層と呼ばれる領域から強い蛍光が検出された。

さらに,高倍率での観察を行なった結果,小脳分子層のシグナルはµm以下のサイズの粒状の蛍光シグナルが集まっていることがわかった。この結果は,生きたマウス脳内で標的小分子が特定のタンパク質に結合し,その様子をFixEL法で高い解像度で解析できることを示している。

次に,FixEL法によって標的小分子がマウス脳内で移動する様子を捉えることを試みた。FixEL法ではPFAを処理する瞬間に小分子の位置が体内に固定される。標的分子の投与からPFA処理までの時間を変えることで,それぞれ異なる蛍光の分布が見られた 。

さらに,FixEL法を用いることによって,mGlu1に結合する小分子だけでなく他の小分子も同じ原理で組織内の位置を捉えられることがわかった。また小分子だけでなく,新しいタイプの医薬品として期待される小型抗体も同様のしくみで脳内分布を画像化できた。

さらに組織透明化技術との組み合わせによって,小分子の組織内での位置を3次元的に解析することにも成功した。

研究グループはこの手法を用いて,新しい医薬品や診断薬の開発を効率化できると期待する。今回は脳内での分布に限った解析だったが,今後は全身への応用もできるようになるとしている。

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