東邦大学の研究グループは,D-アミノ酸酸化酵素(DAO)の活性を蛍光によって,直接的に検出可能な新規化合物MeS-D-KYNを創出した(ニュースリリース)。
生命の維持に不可欠なアミノ酸にはL体とD体の鏡像異性体が存在するが,ヒトの体内に存在するアミノ酸はL体(L-アミノ酸)であり,D体(D-アミノ酸)は細菌やある種の甲殻類,軟体動物に存在し,哺乳類には存在しないと考えられてきた。
しかし,幾つかのD-アミノ酸がヒトの体内に存在して生理機能を担っており,疾患との関連性も明らかになってきた。一方,DAO活性測定には間接的な方法しかなく,生きた細胞でのDAO活性の観察が困難だった。そこで研究グループは,D-キヌレニンと呼ばれるD-アミノ酸の1種が,DAOにより微弱な蛍光を発するキヌレン酸に変換される反応に着目した。
はじめに,キヌレン酸の類縁体を複数合成し,その中からより強い蛍光を発するキヌレン酸類縁体を探索した結果,キヌレン酸よりも約200倍強い青色蛍光(極大励起波長364nm,極大蛍光波長450nm)を発するMeS-キヌレン酸を見出した。
続いて,DAOによってMeS-キヌレン酸へ変換される光学活性の新規化合物MeS-D-KYNを合成した。無蛍光のMeS-D-KYNを試験管内で市販のDAOと加温すると,MeS-キヌレン酸に変換されることが確認され,生成したMeS-キヌレン酸に由来する蛍光の強度は,添加したDAOのユニット数に比例した。また,MeS-D-KYNは光学活性体であり,L-アミノ酸酸化酵素と加温してもほとんど蛍光を発しまなかった。
次に,培養細胞が発現するDAOの活性を評価する蛍光イメージング実験へのMeS-D-KYNの適用を検討した。DAOが発現する状態に培養した細胞(LLC-PK1細胞)の培地にMeS-D-KYNを加え37℃で1時間静置後,蛍光顕微鏡で観察をしたところ,細胞内に青い蛍光が観察された。
また,細胞内小器官ペルオキシソームを緑色蛍光で染色したところ,その染色位置が青色蛍光とほぼ一致していることで,これまで報告されているようにDAOが細胞内小器官ペルオキシソームに存在することが示された。さらに,DAO選択的阻害剤を添加した条件では,青い蛍光が消失したことから,MeS-D-KYNにはDAO活性の蛍光イメージング試薬としての可能性も示された。
研究グループは今後,MeS-D-KYNの化学構造に基づいた,より有用性が高いツールが創出されることで,生体内DAOが関与する様々な生理機能や疾患の機序解明の研究の進展が期待されるとしている。