理化学研究所(理研)と広島大学らは,銀河系内にあるブラックホールと恒星の連星系「はくちょう座X-1」の観測から,ブラックホール近傍から放射されるX線がわずかに偏光していることを発見し,ブラックホール近傍にある高温のプラズマ(コロナ)の位置と形状を明らかにした(ニュースリリース)。
ブラックホールと恒星が互いの周りを回っている連星系(ブラックホール連星系)では,恒星から放出される物質がブラックホールの強い重力に引き寄せられて,ブラックホールの周りに100万℃程度の高温のプラズマから成る薄い「円盤」が形成され,円盤は強いX線を放射する。
さらに高エネルギーX線の観測から,「コロナ」と呼ばれる約10億℃に達する高温プラズマの存在も示唆されている。しかし,コロナがどのような形状で,ブラックホール近傍のどこに位置しているのかは,これまでのX線望遠鏡では分離して観測することができなかった。
X線は波長の短い電磁波であり,電磁波は電場と磁場が交互に振動して空間を伝わる。それぞれのX線の電場はある方向を向いているが,多数のX線の電場が特定の同じ方向を向いている場合は「直線的に偏光している」と表現する。このような偏光はX線が物質を通過し,ある確率で反射するときに生じることから,偏光の強さを測定すると,観測者から見たX線の放射源と反射物質の位置関係が分かる。
研究グループはX線偏光観測に特化した望遠鏡を搭載したIXPE衛星を用いて,X線で最も明るく輝く天体の一つであるブラックホール連星系「はくちょう座X-1」を2022年5月15日から21日まで観測した。
ブラックホール連星系は,その状態が観測時期によって変化することが知られている。測定されたX線スペクトルから,今回観測したはくちょう座X-1はコロナから放射されたX線で明るく輝いている状態にあることが判明した。
従って,この時期のX線偏光を測定することで,X線放射源であるコロナと,それを反射する物質である円盤との位置関係が分かる。データ解析の結果,X線はわずかに偏光しており,その方向はブラックホールからの「ジェット」と呼ばれるプラズマ噴出流の方向(円盤の垂直方向)とそろっていることが明らかになった。
このX線偏光の強さから,コロナはジェット方向には存在せず,円盤の両面を覆っているか,もしくは円盤の内縁とブラックホールとの間に位置していると考えられるという。今回と同様の手法は,中性子星と恒星などのブラックホール以外の連星系にも応用できることから研究グループは,さらなる発見が期待できるとしている。