埼玉大ら,オジギソウの虫害防御高速運動を可視化

埼玉大学と基礎生物学研究所は,オジギソウの運動を引き起こす長距離・高速シグナルを可視化し,この葉の動きが草食性昆虫から身を守る役割があることを明らかにした(ニュースリリース)。

オジギソウは,接触や傷害といった刺激を感じて,葉枕(ようちん)と呼ばれる運動器官を屈曲させることで,次々と葉を動かす。しかし,高速運動を引き起こす長距離シグナル分子の正体や,高速運動の生理学的役割は明らかになっていなかった。

研究グループは,オジギソウの高速運動を引き起こす長距離シグナルを特定するために,カルシウム(Ca2+)の蛍光バイオセンサー(GCaMP)を発現させた「光る」オジギソウを作出し,接触や傷害時に発生するCa2+シグナルを可視化した。

葉をハサミで傷つけると,運動器官である葉枕で次々とCa2+シグナルが発生し,葉が閉じた。Ca2+シグナルと運動の高速イメージングを行なった結果,Ca2+シグナルが葉枕に到達して,わずか0.1秒後に葉が運動した。

古くから,オジギソウの運動には活動電位のような電気シグナルが関与していることが示唆されていた。Ca2+シグナルと電気シグナルとの関係を調べるために,Ca2+および電気シグナルを同時測定できる蛍光イメージング・電気生理学的技術を開発し,2つのシグナルの時空間的な解析を行なった。

オジギソウが傷つけられると,傷つけられた部位からCa2+シグナルと電気シグナルが発生し,葉脈などを介して全身に伝播した。この時,Ca2+と電気シグナルが通過するタイミングや伝達速度などの時空間情報が一致していることがわかった。

このCa2+・電気シグナルおよび葉の高速運動は,Ca2+チャネルを阻害する薬剤やCa2+をキレートする薬剤を処理すると起こらなくなった。よって,Ca2+がオジギソウの運動を引き起こすスイッチ(長距離・高速シグナル)として働いていると考えられた。

高速運動の生理学的役割を明らかにするために,葉枕を欠損した「おじぎをしない」オジギソウ(elp1b変異体)を作出した。動く葉と動かない葉を隣り合わせに並べると,バッタは動かない葉をより多く食べることがわかり,葉の高速運動が草食性昆虫に対する防御機構として働いていることが示された。

この仮説を検証するために,オジギソウが昆虫に攻撃された時のCa2+シグナルと葉の運動,さらに昆虫の挙動をリアルタイムイメージングした。バッタがオジギソウの葉を摂食すると,Ca2+シグナルの伝達と連動して葉が次々と閉じ,その後,バッタは摂食を止め,他の場所に移動していった。

研究グループは,オジギソウはこの虫害防御高速運動によって,動かない他の植物よりも食べられにくいとしている。

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