国立天文台(NAOJ)は,金属3Dプリンタを用いて,アルマ望遠鏡バンド1受信機(観測周波数:35-50 GHz)に搭載する部品「コルゲートホーン」の製作に成功した(ニュースリリース)。
NAOJでは2015年ごろから,付加製造技術(Additive Manufacturing:AM)の天文観測機器への応用を検討してきた。天文観測機器はひとつの望遠鏡にひとつだけの装置という固有なケースが多く,また特殊な部品が必要になるため,積層造形技術を有効に活用できる可能性がある。
そこで研究グループは,当時プロトタイプの設計開発が進んでいたバンド1用部品を試作品として選定し,装置の販売代理店企業と相談をしながら,造形技術によって実際にできることできないこと,造形技術の利点欠点などを検証した。この初期検討をふまえ,2019年に先端技術センターに金属3Dプリンタを導入し,実用品としてのコルゲートホーン製作に着手した。
コルゲートホーンは,天体からの電磁波を受信機上で最初に受信し,後段に設置された検出器へ電磁波を集光する役目を果たす。最先端の電波天文受信機に使用するためには,アンテナビームパターンやその周波数特性など,コルゲートホーン自体の性能が仕様を満たす必要がある。その上,コルゲートホーンが設置される低温かつ真空環境で問題なく機能するための金属材料物性の評価も重要となる。
そのため,常温および低温での機械的強度,収縮率,熱伝導率,電気伝導率などの物理・電気特性を入念に調べ,その妥当性を確認する必要があった。また,コルゲートホーンとしての仕様を満たすために,造形時の様々なパラメータ等も工夫した。
今回の受信機部品の製作には,金属3Dプリンタを用いた新しい製作技術を適用した。この技術により,50GHzまで受信可能な部品を非常に高速かつ正確に製作することができ,大型干渉計や大型マルチビーム受信機などの部品をこれまでよりも短い期間で大量生産する道が見えてたという。
また,従来の製造方法では不可能であった,複数の部品を1つの部品としてまとめて製作することが可能になるかもしれないとする。これは,天文観測用受信機のさらなる性能向上につながるといい,金属による積層造形技術を利用することにより,アルマ望遠鏡がサブミリ波天文学のさらなる可能性の扉を開くとしている。
現在,コルゲートホーンは最終性能評価が進んでおり,これまでの結果では,アルマ望遠鏡の仕様に適合していることが確認されているという。