高エネルギー加速器研究機構(KEK)と東北大学は,放射光X線のMHzオーダーの高繰返し発生特性と先端レーザー装置を組み合わせることで,従来よりも10倍以上高いサンプリング周波数で計測可能な,時間分解共鳴軟X線散乱実験装置を開発した(ニュースリリース)。
時間分解共鳴軟X線散乱実験では,プローブ光の光源としてMHzオーダーの繰返し周波数で発せられる放射光X線を用いる。一方,ポンプ光として用いられる放射光と外部同期したパルスレーザー光源は,一般的には数kHz程度の固定された繰返し周波数で発振するため,測定効率が大幅に低下してしまうことが問題だった。
さらに,一般的なパルスレーザーの発振周波数は固定であるため,信号強度や試料環境などに合わせて自由にレーザーの発振周波数(計測サンプリング周波数)を変えることができず,実験可能な試料や測定環境は限られていた。
そこで研究グループは,先端パルスレーザーをポンプ光として利用した時間分解共鳴軟X線散乱計測システムを構築した。この計測システムはレーザーの発振周波数を最大で放射光と同じMHzオーダーまで任意に調整可能で,試料や実験条件に応じて最適な計測サンプリング周波数で効率よく実験が行なえる。
さらに,放射光X線パルスの発生周波数に対して,偶数倍で割った繰返し周波数でレーザー発振させることにより,放射光X線パルスとレーザーパルスが合うタイミング(レーザーオン)と合わないタイミング(レーザーオフ)での共鳴軟X線散乱信号を同時に検出し,その差分を抽出して微弱な信号強度変化を高精度に検出する方法を開発。最大で1.6MHz/2=800kHzのサンプリング周波数でレーザーオンとオフのタイミング時の共鳴軟X線散乱信号の同時計測が可能となった。
この計測システムを利用して,光照射後100ピコ秒以内で生じるマルチフェロイック材料の代表例であるマンガン酸化物(SmMn2O5)の共鳴軟X線磁気散乱信号の時間変化を,高繰返しレーザー光の照射による試料の損傷を避けながら,従来の計測システムと比較しておよそ20倍のサンプリング周波数で高精度に計測することに成功した。
研究グループは,この計測システムの開発により測定対象物質や測定環境が大幅に拡大するため,光を利用した新規な超高速制御技術の開発に明確な指針を与えるだけでなく,その技術を利用した次世代超高速スイッチング・通信デバイスの応用展開の加速が期待されるとしている。