大阪医科薬科大学(OMPU),中部大学,モリタ,大阪冶金興業は,3D積層造形技術によりはめ込む顎骨の形状に合わせて造形し,骨組織親和性を高める独自の表面処理を施した金属チタンの人工骨を開発した(ニュースリリース)。
頭頚部領域において外傷,炎症,腫瘍などの手術により顎骨の欠損が生じた場合,著しい顔貌の変化や機能障害をきたすため,顎骨再建術が施行される。現在行なわれている顎骨再建術は,体内固定用プレートを骨格とし,患者自身の腓骨や肩甲骨などの血管柄付き筋骨皮弁を移植する。何らかの原因で顎骨再建術を行なう症例は年間で1,200件以上とされている 。
顎骨再建では,骨格となる体内固定用プレートを顎骨の形態に適合させることが重要となる。現在市販されている体内固定用プレートの形状は平坦な直線形であるため,顎骨に適合するよう,手術中に手作業で多くの時間をかけて曲げ加工を行なう必要がある。
そのため,複雑な形態を有する顔貌の修復に限りがあることや,作業時間が長くなり患者の負担が大きいこと,体内固定用プレートを複数回屈曲させるため金属強度が低下すること,術者の技量が手術の成否に大きく影響することなどの多くの課題がある。
また,顎骨は咀嚼による継続的な振動と強い負荷が掛かるため,顎骨再建後の体内固定用プレートの破折や脱離などの問題も生じている。これらの問題を解決するため,体内固定用プレートが患者個々の顎骨形態にしっかりと適合し,手術時のプレートの屈曲成形と患部への適合調整が不要で,術者を選ばず,強固に骨と結合する製品が望まれていた。
大阪医科薬科大学と中部大学らは,開発した生体活性処理を施したチタンが骨と結合することや,骨欠損が早期に修復される現象を動物試験で確認している。そこで研究グループは,人日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受け,レーザーを用いた積層造形法(Selective Laser Melting)により,下顎形状に適合する三次元形状チタンプレートを製作し,それに骨組織親和性を高める生体活性処理を施した新たな体内固定プレートを開発した。
開発した人工骨は,2022年3月に開発を終えたのち,厚生労働省から薬事承認を受け,7月には保険収載を実現した。そして,2022年8月に下顎骨欠損の再建治療に使用される患者適合型体内固定用プレートとして,「コスモフィックス」の製品名で,帝人メディカルテクノロジーから発売された。
この製品により,既存の体内固定用プレートを用いる従来法ではなしえなかった機能性と審美性を兼ね揃えた治療を実現するとしている。