大阪大学と金沢大学は,神経ペプチド「オキシトシン」を生きた動物の脳内から計測するための技術開発に成功した(ニュースリリース)。
オキシトシンは別名幸せホルモンと呼ばれる神経ペプチドであり,多様な生体機能制御に関わることが知られている。オキシトシンが脳内で分泌されると,幸せや愛情を感じるとされているほか,不安やストレスを緩和したり,食欲や代謝をコントロールするなど重要な役割を果たしている。また,オキシトシンの異常は,自閉スペクトラム症や統合失調症といった難治性の精神疾患の治療法開発への鍵分子としても大きく注目されている。
しかしながら,オキシトシンを生きた脳内から直接測定することは難しく,オキシトシンが脳内においていつ・どこで・どのように働いているか,という基本的な問題が未解決だった。
研究グループは細胞外オキシトシンが結合することにより,明るさが大きく変化する蛍光センサーの開発を行なった。センサーのデザインとしては,オキシトシンと結合する細胞膜タンパク質であるオキシトシン受容体と緑色蛍光タンパク質により構成されたキメラタンパク質を採用した。
このキメラタンパク質センサーに順次変異を加えていき,最終的に,オキシトシンに対し最大約8倍もの蛍光強度変化を示す超高感度蛍光オキシトシンセンサー「MTRIAOT」を開発することに成功した。
MTRIAOTをマウス脳に導入し,様々な実験条件下における脳内オキシトシン動態の計測を実施したところ,薬物投与や光刺激により人為的に誘導した脳内オキシトシン上昇のみならず,様々な外界からの刺激に応答した内因性のオキシトシン濃度制御についても観測することができた。
今回の計測において,刺激の種類により,秒単位・分単位・時間単位など時間スケールの大きく異なるオキシトシン濃度変化が脳の中で達成されている,という予想外のシナリオが見えてきたという。
研究では,限られた実験条件下で脳内オキシトシン動態計測を実施したが,オキシトシンと関連が示唆されている生理機能や病態はまだたくさん残されており,今後幅広い研究への応用が期待されるという。
特にこのツールの活用により,難治性の精神疾患の病因解明や治療薬開発が大きく前進することが期待される。さらに,オキシトシンは,内耳や眼などの感覚器や腎臓などの末梢組織においても重要な機能を果たしていると考えられており,研究グループは,脳以外の臓器間相互作用シグナル研究にも大きく貢献すると期待している。