分子科学研究所,大阪公立大学,大阪大学,ソウル国立大学校らは,キラルな金ナノ微粒子を円偏光で光トラッピングすることで,右巻きと左巻きの粒子に対する光トラッピングの力(光勾配力)の特性の違いを観測することに成功し,右巻きと左巻きのナノ微粒子が区別できることを示した(ニュースリリース)。
キラリティとは物質の構造が,その鏡写しにした構造と同じにならない性質を表す。こういったキラルな物質の特徴の一つとして,右回りの円偏光と左回りの円偏光に対して異なる応答を示すこと(光学活性)が知られている。
一方,物体に強い光を照射すると光の力(光散乱力,光勾配力)が働くが,キラルな物質に働く光の力も右回りと左回りの円偏光の光に対して異なると,理論的に予想されていた。
研究グループは,光トラッピングの技術を用いて,キラルな金ナノ微粒子に働く円偏光に依存する光勾配力の観測を行なった。キラルな金ナノ微粒子には右巻きと左巻きの構造のものがあり,その両方を用いて実験を行なった。
キラルなナノ微粒子に働く光勾配力は理論的には予想されていたが,実際に観測された例はなかった。研究グループは,そのキラルな金ナノ微粒子を右回りと左回りの円偏光で光トラッピングすることで,キラリティに由来する光勾配力(左右の円偏光による光勾配力の差)を観測することに成功し,右巻きの微粒子と左巻きの微粒子で光勾配力が異なることを示した。また用いる光の波長に対する依存性から,そのメカニズムについて,これまで知られていない効果があることを見出した。
この研究結果において,キラルな金ナノ微粒子の運動に与える円偏光依存の光勾配力の特徴が解明されたことで,キラルな物質の光の力による分離の可能性が示された。研究グループは今後,ナノ構造体上に発生する局所的に強い光で光トラッピングを行なったり,他のメカニズムによる光の力も利用したりすることで,キラルな物質の分離の応用展開が期待されるとしている。