順天堂大学の研究グループは,グルコースオキシダーゼによるグルコースの酸化反応とチラミドシグナル増幅法(TSA法)を組み合わせることで,操作安定性が高く簡便な多色蛍光シグナル増幅システム,FT-GO (Fluorochromized Tyramide-Glucose Oxidase) 法の開発に成功した(ニュースリリース)。
蛍光を用いたシグナル検出は,医学・生命科学研究において必要不可欠な方法となっている。研究グループは,操作安定性が高くかつ簡便な多色蛍光シグナル増幅法を実現することを目的に,研究開発に取り組んできた。
今回開発したFT-GO法は,グルコースオキシダーゼによるグルコースの酸化反応により生じた過酸化水素を用いた蛍光TSA法となる。過酸化水素は熱力学的に不安定な物質であるため,グルコースオキシダーゼの酵素反応を利用することで安定的に過酸化水素を供給し,操作安定性が高くかつ簡便な多色蛍光シグナル増幅システムの実現を図った。
FT-GO法のシグナル増幅を調べた結果,従来の一般的なシグナル検出法である間接法と比較して約10倍から30倍,直接法と比較して約60倍から180倍のシグナル増幅を可能にすることが明らかになった。
次に,FT-GO法を用いたカテコールアミン(CA)作動性の神経軸索の可視化に取り組んだ。CA作動性ニューロンは,細くて長く複雑に枝分かれした神経軸索を脳内に張りめぐらせることが知られている。
間接法では,マウス脳におけるCA作動性の神経軸索を明瞭に可視化できなかったのに対し,FT-GO法はCA作動性の神経軸索を一本一本の単位で明瞭に可視化できた。これは,霊長類であるマーモセットの脳においても成功した。
蛍光シグナル検出は,異なる蛍光色素を用いた多色標識が可能。FT-GO法により多色標識を行なうには,一つの蛍光色素を用いた染色が終了する度に,TSA反応を行なうための酵素であるペルオキシダーゼ(POD)を失活させる必要がある。
研究グループは,防腐剤の一つであるアジ化ナトリウムを用いることにより,標的分子への影響を最小限に抑えた状態でペルオキシダーゼを失活させることに成功した。このPOD失活法とFT-GO法とを組み合わせることにより,組織中の異なるメッセンジャーRNAをそれぞれ異なる色で標識する技術,Multiplex FT-GO FISH法を実現した。
さらに,抗体で標識したシグナルをFT-GO法により増幅することにより,蛍光タンパク質の観察では検出できなかった神経軸索の標的への投射を示すことに成功した。
研究グループは,FT-GO法が今後の組織化学解析において幅広く使用されると期待している。