東邦大学とネッパジーンは,組織標本上での蛍光を消光するLED式蛍光消光装置「TiYO」を開発した(ニュースリリース)。
組織における様々な生体物質を検出する蛍光色素は生命現象を理解する上で必要不可欠だが,生体内には蛍光を発するノイズとなる物質があり,人工的に標識された蛍光とノイズを区別できないという問題があった。
これまでの自家蛍光への対処法としては,主に試薬による消光が用いられてきた。しかしながら自家蛍光を消光する試薬のほとんどは,本来検出したい蛍光色素由来の蛍光シグナルまでも減弱させてしまったり,特定の蛍光波長でノイズを増やしてしまうなどの欠点があった。
試薬を用いないアプローチの一つとして,強力な光照射による消光も試みられてきたが,スライドガラス1枚を全て消光するまでに数時間から数日を必要とする,光による熱発生で組織が変性してしまうなど,実用化には多くの障壁があった。
研究グループは照射する光の波長,光源の種類,光の当て方を最適化することで消光までに必要な時間を短縮することを試み,高効率LEDを用いることで短時間での消光を実現する光条件の最適化に成功した。
消光効率を上げるために光照射量を増やすことで熱により組織が変性してしまうため,水分が蒸発する際に周囲から熱を奪う気化熱を用いた冷却システムを採用することで組織標本の温度上昇のほぼ完全な抑制に成功し,蛍光消光装置として「TiYO」が完成した(特許出願済み)。
実際にマウス脳切片を消光したところ約60分でほとんどの自家蛍光が見えなくなったという。これまでの試薬を用いた消光技術では,蛍光色素の種類によっては自家蛍光だけでなく本来検出したいシグナルも減弱することがあったが,この装置を用いて消光処理を行なった蛍光染色ではシグナル強度は保持されていた。
この装置による消光処理によって組織切片の変性や染色シグナルの低下などは確認されず,既存の様々な蛍光染色に適用可能であることが示唆されたとする。
さらに研究グループは一度蛍光染色を行なった組織切片に対して「TiYO」による消光処理を行なうことで,緑色から近赤外の波長を持つ蛍光色素であれば消光が出来ることも明らかにした。つまり,この消光処理によって,組織切片上の蛍光シグナルを染色前の状態に戻すことが出来るということになる。
この性質を利用して,研究グループは複数回のin situ hybridization法と免疫染色法により,同一の組織切片から9種類の分子を検出できることも示した。「TiYO」はネッパジーンにおいて事業化が進められており,来年度販売予定だとしている。