産総研ら,肝細胞内の薬物代謝活性を光で可視化

産業技術総合研究所(産総研)と大阪大学は,肝細胞(肝実質細胞)で発現する薬物代謝酵素(CYP)の酵素活性が,酸化型CYPの分子数と相関しているため,この酵素群の分子をラマン散乱により検出すると,CYPの酵素活性を推定できることを発見した(ニュースリリース)。

薬物代謝酵素(CYP)は,主に肝細胞や小腸上皮細胞で発現し,投与された薬物の代謝に関与している。薬物によるCYP活性の誘導や阻害は,しばしば予期せぬ薬物有害反応(ADR)を引き起こすため,医薬品開発においては,CYPの活性を含む肝代謝の評価を行うことが必要とされている。

薬物代謝の定量評価は,コンピュータのみでは困難なため,肝細胞や動物モデルを用いた薬物応答試験も併用して行なわれている。また,再生医療に活用することが期待されている肝細胞などの細胞製品の品質管理においても,肝臓の重要な機能であるCYP活性の評価は必要不可欠となっている。

現在のCYP活性の評価は,蛍光法・発光法などを用いたエンドポイント測定や質量分析法などの破壊的かつ1回限りの手法に依存しており,活性の細胞内分布や経時変化の測定は困難で,これが研究開発および製品開発の妨げになっていた。

研究では,大阪大学が開発したラインスキャンが可能な高速ラマン顕微鏡を用いて,肝細胞内の分子が持つラマンスペクトルを解析し,肝細胞の分化度や成熟度の測定とこれに基づく細胞品質評価を可能とする技術の開発を目標とした。

CYPを誘導する薬剤を添加した肝細胞を観察したところ,酸化型CYP酵素群をラマン散乱により検出できること,また,その信号がCYPの酵素活性と相関を示すことを発見した。

この知見に基づき,ラマン散乱顕微鏡を用いて,生きた無標識の細胞を破壊することなく,光を当てるだけで,CYPの酵素活性の細胞内分布を可視化することに成功した。また,他の生体分子のラマン散乱を同時に検出することにより,薬物に対する細胞応答を多角的に解析できることも示した。

CYPは肝細胞での薬物や毒物の代謝において重要な役割を担っており,かつCYP活性と他の生体分子をラマン散乱により同時に検出できるため,開発した技術は薬物に対する細胞応答を多角的に解析することを可能とする。

研究グループはこの技術について,創薬開発における肝臓の薬物応答試験や再生医療で用いる肝細胞製品の品質評価への応用が期待されるとしている。

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