大阪大学と基礎生物学研究所は,15~50℃の範囲中の温度変化に対して,蛍光が高速で応答する蛍光タンパク質温度センサー「B-gTEMP」の開発に成功した(ニュースリリース)。
従来の蛍光タンパク質温度センサーは温度変化に対する応答速度が遅かったため,急激な温度変化にも追随できる高速応答性の蛍光タンパク質温度センサーの開発が強く期待されていた。
研究グループは,フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)のペアとなる蛍光タンパク質mNeonGreenおよびtdTomatoを連結させた分子デザインを着想した。B-gTEMPに青色の励起光を照射することで,mNeonGreenおよびtdTomato両方の蛍光を同時に測定することができる。
多くの蛍光タンパク質は,温度上昇に伴って蛍光量子収率が低下する熱消光を示すが,mNeonGreenに比べてtdTomatoは大幅な熱消光を示す。この蛍光測定から得られるmNeonGreen/tdTomatoの蛍光比は低温側で小さい値を,高温度側で大きい値を示すため,これを指標として温度測定ができる。
このような蛍光比を通した温度計測では,細胞中における温度センサーの濃度分布の偏りや細胞の厚み不均一さなどの影響を受けずに,高精度な温度測定ができる。
蛍光タンパク質温度センサーは,その遺伝子を細胞内に導入して細胞に作らせて特定のタンパク質複合体や細胞小器官に局在させることで,細胞内の特定部位の温度変化や温度分布の計測が可能。蛍光タンパク質温度センサーは非侵襲で細胞内の温度を測定できる点でも有用となる。
従来の蛍光タンパク質温度センサーは,温度変化に伴って起こるタンパク質分子内の構造変化のような大きな変化で誘起される蛍光シグナル変化を利用して温度測定を行なうが,温度変化が起こってから蛍光シグナルが変化するまで0.1秒以上の時間が必要だった。
一方,B-gTEMPでは,tdTomatoの蛍光発色団とその周囲のアミノ酸や水分子との衝突頻度が温度の影響を受けることで蛍光強度が変化する熱消光を利用している。熱消光はタンパク質の大きな構造変化が伴わないため,温度変化に対して非常に速く応答する。
ヒト由来のHeLa細胞中の熱拡散率をB-gTEMPを用いて測定したところ,発生した熱が数ミリ秒で細胞の中へ伝わっていく様子を可視化できた。研究グループは,B-gTEMPが生体内や細胞内における未知の熱産生現象を発見するための基盤技術として,医学・創薬研究にも大きく貢献するとしている。