愛媛大学,京都府農林水産技術センター,京都大学は,京都府のブランド野菜である万願寺甘とう(甘長トウガラシの一つ)のスマート農業技術につながる現象を見出した(ニュースリリース)。
京都府のブランド野菜である万願寺甘とうは,地域にとって重要な伝統文化の一つだが,農業就業人口の減少によって生産量の維持が難しくなっているとも言われている。こうした地域野菜の継承や,地産地消,食料安定供給に対して,スマート農業技術への期待が高まっている。
甘長トウガラシに限らず,日射は作物の栽培に欠かせないものの,強すぎる日射は生育不良や果実障害を誘発する要因となり,一般に遮光技術が用いられる。しかし,栽培施設の内部では日々変化する日射のむらを把握することは容易ではなく,またそこに多くの手間を割けないという問題もある。
日射強度の把握のためには,施設内に日射計が設置されることがある。また,一部のメーカーから電力を必要としない日射フィルムも販売されている。しかし,日射計は施設内に多数設置するのに掛かるコストの負担が難しいことが問題となる。日射フィルムは低コストだが,作物の日射に対する応答そのものを見ることはできない。
そこで研究グループは,トウガラシ類の蛍光が果実ごとに異なること,またその起源について研究を行なってきた。蛍光情報は,既存の選果設備にも活用されていることから,蛍光の違いを理解することは選果時の誤判定の軽減にもつながる。
今回,京都府において日射強度の異なる条件で栽培された万願寺甘とうについて,収穫後の蛍光を調べた。慣行の条件(着果から収穫まで積算日射量178 MJm-2,光合成有効光量子束密度810 mol m-2)とその約半分の日射条件で比較すると,蛍光のうち青色の発光強度が慣行条件では平均で70%に減少することが分かった。
また,紫外A領域365nmの5 mWm-2で照射すると,目視で蛍光が確認できないほど蛍光が弱い果実は日射の強い条件のみで生じることも分かった。
そこで,高い日射条件で青色の蛍光が減少する生理的な要因をさらに調べたところ,表皮細胞層のクチクラの発達(厚みの増加および色素の沈着)が関与していることも明らかになった。
この青色の現象は他のトウガラシ類でも見られること,また技術自体は現在普及している共同選果施設を活用できることから,研究グループは,既存の画像データに新たな解釈を加えることで出荷団体の営農指導,生産者の営農情報として活用できることが期待できるとしている。