東京工業大学,九州大学,仏ナント大学,工学院大学は,発光性の有機π電子系分子の分子内に橋かけ構造を構築することにより,1分子で超高効率発光する固体発光材料を作製することに成功した(ニュースリリース)。
近年,有機EL,表示材料,分析などに利用されている,固体で強く発光する蛍光色素の機能開発に大きな注目が集まっている。
蛍光色素において欲しい発光色と高い発光効率を同時に実現するには,結晶状態で分子を孤立させることが理想であり,従来は色素にかさ高い置換基を導入する方法が取られてきた。しかしこの方法には,色素密度や機能の低下,加工や合成の難しさなどの欠点が指摘されている。
研究グループは,青色の有機蛍光色素として広く使われているπ電子系分子であるジスチリルベンゼンを基本骨格とし,その2つの二重結合のまわりを短い炭化水素鎖でゆるく結合し,小さな環を導入した7員環構造の「橋かけジスチリルベンゼン」を合成した。
この橋かけジスチリルベンゼンの光物理的性質を検討したところ,溶液中,凝集状態,固体状態,フィルムに分散した状態のすべてでほぼ同じ蛍光スペクトルを示し,さらに固体状態で高い発光量子収率(84%以上)を示すことから,モノマー発光を実現していることがわかった。
次に,単結晶X線構造解析を行なったところ,モノマー発光する橋かけジスチリルベンゼンは,分子間で電子的な相互作用を起こさない,π平面が交互に捩じれた結晶構造であることがわかった。
一方,橋かけ構造のない通常のジスチリルベンゼンの場合には,電子的相互作用が起こるπ平面の積層が起こり,固体状態になると発光波長が溶液中と比べて大きく長波長にシフトした。しかし,結晶における発光部位(ジスチリルベンゼン)の占有体積は,橋かけ構造の有無に関わらずほぼ同じだった。
また,橋かけジスチリルベンゼンは,機械的刺激(応力)を加えても発光色が変化しなかった。したがって,結晶,固体,フィルム分散などの加工方法を選ばずに,一定のパフォーマンスを発揮することができるという。
このように,剛直なπ電子系分子へ橋かけによる小さな環を導入するだけで,その結晶構造を環がない場合から大きく変化させることができた。結晶形成のメカニズムは複雑で,現在のところ,得られる結晶形を正確に予想することはできないものの,結晶構造の多様性を向上させるこの手法の発見には,大きな波及効果があるとする。
こうした有機π電子系分子への橋かけ構造の導入により得られる結晶構造では,橋かけ構造のないものとは結晶形が異なる場合が多く,この手法がもたらす結晶構造の多様性の向上は,固体発光材料や有機半導体の開発に大きく貢献するとしている。