京都大学の研究グループは,偏光分解ポンプ・プローブ顕微鏡を開発し,二次元層状ハライドペロブスカイト半導体における励起子スピンが室温で特異な時空間ダイナミクスを示すことを発見した(ニュースリリース)。
遷移金属ダイカルコゲナイトに代表される原子層半導体物質では,励起子スピンの空間パターン形成や長距離輸送が生じることが観測され,励起子スピンを情報担体として用いるデバイスの開発が期待されている。しかし,これらの物質における励起子スピン緩和時間は短いため,励起子スピンの空間自由度が顕著に現れる現象の観測は低温に限られていた。
二次元層状ハライドペロブスカイトは有機鎖と二次元ペロブスカイト層が交互に積層した量子井戸構造からなり,量子閉じ込め効果と誘電閉じ込め効果によって,励起子が室温でも安定に存在する。さらに,左・右回り円偏光により,スピン偏極した励起子が選択的に励起できるため,新たな光スピンデバイス材料として注目されている。
特に,その比較的長いスピン緩和時間から,室温における励起子スピン輸送に向けた興味深い二次元量子材料系であり,その励起子スピンの時空間ダイナミクスの解明が望まれていた。
今回研究グループは,二次元層状ハライドペロブスカイトにおける励起子スピンの時空間ダイナミクスを観測するため,サブピコ秒(<10-12秒)・サブマイクロメートル(<10-3mm)の時空間分解能をもつ偏光分解ポンプ・プローブ顕微鏡を開発した。
円偏光ポンプによって生成された励起子スピンの量を反映して,直線偏光プローブ光の偏光面が回転する。この回転角を高精度に計測し,時間分解空間イメージングを行なうことにより,励起子スピンの時空間情報を明らかにした。
二次元層状ハライドペロブスカイト単結晶(BA)2(MA)3Pb4I13(BA=C4H9NH3,MA=CH3NH3)を対象に室温で測定を行なった結果,弱励起条件では,ポンプビーム形状を反映したガウシアン形の空間パターンを保ったまま励起子スピンが緩和していく様子が観測された。
一方で,強励起条件では,励起直後のガウシアン形の空間パターンが励起から時間が経つにつれて,リング状の空間パターンへと発展していき,同時に高速な励起子スピン輸送が生じていることを発見した。さらに,このような励起強度に依存した励起子スピンの時空間ダイナミクスが励起子・励起子交換相互作用に起因していることを明らかにした。
今回,二次元物質における励起子スピン自由度を利用した光スピンデバイスが室温で実現できる可能性を示した。研究グループは,電気・光学特性に加えて,スピンにも注目することで,新たな材料や光電デバイスの開発が期待されるとしている。