横浜国立大学の研究グループは,ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)からなるスピン量子ビットを,独自の手法で高空間分解能かつ高忠実度に制御することに成功した(ニュースリリース)。
ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)は,ダイヤモンド中の隣接した二つの炭素において,一つの炭素が窒素(N)に,もう一つの炭素が空孔(V)に置換されたもの。例えれば,透明なダイヤモンド中にトラップされた原子のようなもので,そのサイズはほぼ原子サイズで非常に小さいため大規模集積化に適した材料と言える。
NV中心は,20年以上前から量子デバイスの材料の候補として世界中で盛んに研究が行なわれてきた。NV中心は,電子スピンや核スピンを持ち,これがスピン量子ビットとして用いられる。そのメモリ時間は,最大で1秒を超えるほどで,超伝導量子ビットや半導体量子ドットなどの他の材料に比べて非常に長いことが知られている。そのため,特に長寿命量子メモリを必要とする量子中継器の材料として期待が寄せられている。
通常,スピン量子ビットはマイクロ波やラジオ波によって量子制御されるが,それらの波は微小空間的に局在させることができないため,従来の制御手法では隣り合ったスピン量子ビットを個別に制御することが困難だった。それを解決しようと,空間分解能の高い光を使ったスピン制御手法も開発されてきたが,忠実度が低いことや,十分に高精度な制御ができないという問題があった。
今回,光を量子ビットの選択的なアクティブ化,非アクティブ化のランダムアクセス制御に使用し,量子制御はマイクロ波およびラジオ波で行なう新しい手法(光アドレス量子ゲート)を考案した。これにより高空間分解能と高忠実度が両立できることを実験で実証した。
研究グループは,今後,長寿命量子メモリを搭載した大規模集積量子メモリの実現に向けて,複数NV中心の同時制御を試みる。その次には,大規模量子ストレージによる高速な量子中継技術を確立し,量子暗号通信や分散型量子計算,秘匿量子計算の通信基盤となる量子インターネットの実現を目指すとしている。