九州大学,岐阜大学,産業総合研究所は,層間磁気結合による巨大な内部磁場を利用することで,無磁場で動作する周波数可変なスピントルク発振器が実現できることを計算機シミュレーションと理論的解析によって実証した(ニュースリリース)。
スピントルク発振器は磁性体で構成される発振器の一種。これに電流を流すことで,電子の持つスピン角運動量を磁性体の磁化に受け渡し,これをトルクと感じた磁化が高速回転しての高周波発振が得られる。この原理で,直流電流からGHz帯の高周波交流電流を取り出すことができる。
また,微細加工により約100nmの大きさまで小型化することが可能であり,室温で稼働することから,次世代の小型発振器として注目を集めている。さらに,この発振器は電流の大きさで周波数を変えることができ,所望の周波数を電流値の変更のみで得られる可能性を秘めている。
しかし,数100GHzの高周波帯での信号を得ようとすると非常に大きな外部磁場を印加する必要があり,発振素子の大型化を招くといった問題があった。
今回の研究では,スピントルク発振器の内部に強い層間磁気結合を導入することを提案した。これにより外部磁場なしでも高周波の信号が生成できることを示した。層間磁気結合は非磁性体を二層の磁性体ではさみこんだ形の構造で,各層の磁化が特定の向きに結合する状態であり,様々な磁性デバイスで使用されている。
この研究では磁化の小さい磁性体を磁化発振層に使用することで,層間磁気結合の強度を極めて大きくさせた。その結果,無磁場中で数100GHzの発振が実現可能であること,電流を変えることで周波数が制御できることを計算機シミュレーションと理論的解析から明らかにした。
さらに,層間磁気結合の強さや,磁化発振層の磁化の大きさなどのパラメータを網羅的に変化させ検証を行なうことで,約25-570GHzという例を見ない超広域で周波数可変なスピントルク発振器の設計指針を得ることに成功した。
今回,電流の変化のみで広い周波数帯で発振可能なスピントルク発振器の設計指針を得た。30-300GHz帯の周波数を持ミリ波は,Beyond 5Gや車載レーダーでの利用が期待されている。印加磁場が無い状態においておよそ25GHzから570GHzまでの周波数を得ることができ,ミリ波の周波数帯を包括的にカバーしている。
研究グループは,この設計指針を広く展開することで,次世代の広帯域小型発振器の実現が期待できるといている。