東京理科大学とカザフスタンのナザルバエフ大学は,無機ナノ材料の毒性制御のためのナノ粒子-タンパク質間相互作用の原理解明に向け,実験的手法と計算科学的手法を組み合わせた新たなアプローチを提示し,原理の一端として共存イオンの効果を示すことに成功した(ニュースリリース)。
フッ化物ナノ粒子(NP)は,生体イメージングや薬物送達制御(DDS:ドラッグデリバリーシステム)をはじめヒトの疾病治療・予防につながる微小スケール材料として期待されている。
無機ナノ材料には毒性の懸念があるため,応用に至るまでには解決しなければならない問題が多くある一方,有機分子にはない高機能材料を提供できる可能性があるため,その毒性制御のためにナノ粒子-タンパク質間相互作用の原理解明が期待されている。
今回の研究では,アミロイドβペプチド(Aβ16-20)とフッ化物ナノ粒子であるフッ化セリウム(CeF3)NPを用いて,NP存在下ではAβ16-20のβ-シート構造(隣り合ったポリペプチド鎖が水素結合によって連なったシート状の構造)の形成が促進されることを明らかにした。
X線回折および動的光散乱を用いたCeF3粒子の特性評価を踏まえて,サイズ分布のピークの80nmを代表的なCeF3粒子径とみなした。Aβ16-20は分子量が小さいことから比較的容易にMDシミュレーションを行なうことができる。研究グループは,液膜FT-IR分光法とMDシミュレーションを用いてAβの二次構造変化と凝集について解析した。
その結果,Aβペプチドのβシート構造の形成は,水素結合の形成に起因しているため,アンモニウムイオン(NH4+)の存在下では促進されたが,硝酸イオン(NO3−)の存在下では,抑制されることが示された。
無機NP表面でのタンパク質のふるまいは複雑ですあり,タンパク質の二次構造変化の原理の解明は,疾病予防に重要である一方で分析が難しく,世界的にも研究が進んでいない。今回の結果は,物理化学的性質の異なるNPがタンパク質の分子状態に与える影響に関する新たな知見を提供するもの。
研究グループは,無機NP表面でのタンパク質のふるまいを理解することにより,医学生物学分野における高機能材料になると期待される無機ナノ粒子の応用可能性が広がるとしている。