名工大ら,高速造形可能なAM用ステンレス粉末開発

名古屋工業大学と東京都立産業技術研究センターは,従来のステンレス鋼粉末と比べ,小さなエネルギーで高速造形が可能な新規金属粉末の開発に成功した(ニュースリリース)。

ステンレス鋼は,優れた耐食性から広く利用されており,3Dプリンティング技術への適用が望まれている。しかし,金属3Dプリンティングでは,金属特有の溶融・凝固を素過程とする必要があるため,粉末の溶け残りや冷却時の体積収縮に起因する内部空孔が形成しやすい。

また,鋳造組織に類似する粗大な不均一組織(柱状組織)が形成して,強度が低下すると同時に力学特性に異方性が発生するという潜在的な問題を抱えている。

今回研究グループは,異質核生成理論(ヘテロ凝固理論)を金属3Dプリンティング技術に応用した。この手法は,母材金属よりも高い融点を有し,かつ母材金属の初晶となる相に対して原子配列の整合性の良いヘテロ凝固核粒子を添加して3Dプリンティングを行なう。

母材金属粉末とヘテロ凝固核粒子を混合し,その混合粉末を用いて3Dプリンティングを行なうと,凝固が均一に発生するため,内部欠陥の発生が抑えられ,密度の高い造形体が得られる。

従来SUS316Lとヘテロ凝固核粒子を添加した発明品を用いて3Dプリンティングにより造形した材料を比較したところ,エネルギー密度を下げても,相対密度があまり低下せず,小さいエネルギー密度で造形が可能なことがわかった。

また金属組織は従来SUS316Lと比較して,微細化している。従来のSUS316L粉末を使った3Dプリンティングでは,スキャン速度,すなわち造形速度を速くすると相対密度が下がってしまい,造形性が下がってしまった。これに対して発明品は,高速造形を行なってもあまり密度低下が発生せず,高速造形が可能となった。

引張り強度が向上することが見いだされるとともに,従来SUS316L粉末を用いた造形体の硬さは,スキャン速度をあげて造形すると下がる傾向があるものの,発明品はスキャン速度にあまり依存しないことも明らかになった。

SUS316Lは通常のステンレス鋼と比較しても耐食性が高く,骨接合材などの生体材料でもある。発明品は食塩水中で,従来粉末を用いた造形体と同等な耐食性を示し,医療分野への展開も可能となる。

この手法は,母材金属に合わせてヘテロ凝固核粒子を選定することで,様々な金属種・合金種を用いた3Dプリンティングに幅広く適用できるという。研究グループは今後,他の金属あるいは合金についても調査を行なう。また,添加する異質核粒子の形状やサイズ,添加量を最適化し,さらなる性能発揮を求めていきたいとしている。

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