東大ら,生命現象を赤色光で操作する技術を開発

東京大学,神奈川県立産業技術総合研究所,理化学研究所,東京都立大学,米コロンビア大学らは,生体組織透過性が極めて高い赤色光で生体深部の生命現象を操作できる光スイッチタンパク質(MagRed:マグレッド)の開発に成功した(ニュースリリース)。

「生体の窓」と呼ばれる波長領域(650~800nm)に相当する赤色光は生体組織に吸収されにくく,生体深部にまで届きやすいため,光操作技術の開発が期待されている。

研究グループは,さまざまなバクテリアが持つ赤色光受容体タンパク質のバクテリオフィトクロム(BphP)の中で,特に放射線抵抗性細菌が有する BphP(DrBphP)に着目。DrBphPは赤色光(~660nm)に応答して構造が大きく変化する。この構造変化を認識して結合するタンパク質(バインダー)を開発することで,赤色光スイッチタンパク質を開発できると考えた。

赤色光を照射した条件でのみDrBphPと結合するアフィボディをバインダー候補として単離し,改変を加えることで,赤色光照射時の結合効率を改善したバインダーの開発に成功した。このDrBphPとアフィボディ(バインダー)からなる光スイッチタンパク質を“MagRed”(マグレッド)と名付けた。

次に,遺伝子発現の光操作技術(CPTS)へのMagRedの応用を検討したところ,既存の赤色光スイッチタンパク質では光制御能が著しく低いことがわかった一方,MagRedを用いたCPTS(Red-CPTS)では,暗環境下での活性がほとんど検出されず,赤色光照射で効率良く遺伝子発現を誘導でき,MagRedが極めて高い光制御能を有することがわかった。

またRed-CPTSを用いることで,赤色光照射によってゲノムにコードされた複数の内在性遺伝子でも同時に活性化することに成功した(赤色光照射によって内在性遺伝子の発現を最大で378倍活性化)。

さらに,MagRedを用いた赤色光によるDNA組換え反応の光操作技術への応用も検討した。暗環境下ではDNA組換え活性を持たず,赤色光照射によって高い活性が出現するDNA組換え酵素(RedPA-Cre)を開発し,赤色光で制御する4種類の従来技術と比較したところ,RedPA-Creの方がはるかに効率良くDNA組換え反応を光操作できることがわかった。

RedPA-CreとRed-CPTSをそれぞれマウスの肝臓に導入し,生体外から非侵襲的に赤色光を照射すると,いずれも遺伝子の働きを効率良く操作できることを明らかにした。研究グループは,この成果が,生命科学・医学分野を含む幅広い研究分野において役立つことが期待されるとしている。

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