日本原子力研究開発機構(原研)らは,アメリシウムに特徴的な吸収波長のレーザーを硝酸水溶液中のアメリシウムに照射することにより酸化反応が誘起されることを見出した(ニュースリリース)。
放射性廃棄物の地層処分の負担を減らすには,長期的な有害性が高い放射性元素(特にアメリシウム)を放射性廃棄物から分別することが重要とばる。
使用済み燃料中に含まれるアクチノイドもしくはランタノイドと呼ばれる元素群は,同じ酸化状態では,原子の最外殻の電子の配置が同じであり,サイズがほとんど同じであるため,化学的性質が類似しており,化学的手法による分離は難しいことが知られている。とりわけ周期表上で隣り合う元素同士の分離は極めて難しくなっている。
一方,最外殻電子とは対照的に,内殻の電子の数は原子番号と共に1つずつ増える。その影響で,可視光領域での光の吸収波長が元素ごとに異なる。つまり全ての元素は「色」が違うため,この色の違いにより元素を峻別できる可能性がある。
吸収波長の違いに着目した分離法の研究例は過去にもあったが,光吸収だけでは原子に与えることのできるエネルギーが足りなかったため,単純に光をあてても化学反応は起こらなかった。
そこで研究グループは,続けて別の吸収を起こすようなレーザー光を照射し,化学反応を起こすことに成功した。アクチノイドの一つであるアメリシウムは,溶液中で最も安定な酸化数Ⅲの状態で緑色の光を吸収する。
そこで,アメリシウムを溶かした硝酸水溶液に波長503nmのレーザー光を照射し,溶液中のアメリシウムの状態変化を吸収スペクトルの変化として観察した。照射の際は,ホットスポットによる試料の破壊を防ぐため,照射位置での光の強度分布が均一になるよう像転送と呼ばれる技法を用いた。
実験の結果,反応には硝酸イオンが必要なことを見出すと共に,生成物分析の結果から酸化反応が起きていることを明らかにした。さらに,ランタノイド共存下でアメリシウムだけを選択的に酸化し,その溶液を溶媒抽出することにより,酸化されたアメリシウムとランタノイドをきれいに分離できることを実証した。
さらに,反応のしくみを解明するために大型放射光施設SPring-8 における放射光X線吸収分光および大型計算機による量子化学計算を行ない,光吸収した後の電子のふるまいを明らかにした。
これらの結果,今回の手法が放射性廃棄物の分別原理として新たな選択肢となりうることを示唆した。また,アメリシウム以外のランタノイド・アクチノイドに対しても有効な選別原理になると考えられるため,希少金属の再利用を促進する超高純度精製法への発展が期待できるという。
研究グループは,持続可能な資源循環型社会の実現に貢献する日本発の新技術が誕生する可能性があるとしている。