北海道大学の研究グループは,フィールドデータをもとに大型のガ(マイマイガなど)を優先的に捕獲し,他の昆虫はなるべく逃がすライトトラップを開発した(ニュースリリース)。
北海道の森林面積は日本の都道府県中最も広く,短い夏の間に森林昆虫が大量発生する。特に,マイマイガやクスサンなどの大型のガは,道路沿線の休憩施設へ多数飛来し,定着・産卵をおこすことで,利用者の苦情のもとになってきた。
そこで研究では,休憩施設への大型のガのよりつきを減らす狙いで,誘引性の高いライトトラップを作成することを目的とした。これまで昆虫の色(光波長)への嗜好性に着目したトラップは多く作成されてきたが,光源照射角や捕獲部分の形状にまで工夫を凝らしたトラップは少なかった。
2016年から2018年の7~9月の有翅昆虫の出現時期に,光波長(365-535nm)や照射角(0-120度)の異なる光源を道路沿線に設置することにより,昆虫の光源定位行動やトラップされる昆虫種・数を精査した。フィールドデータをもとに,毎年少しずつトラップの仕様変更を進め,大型のガを捕獲しやすいトラップを作成した。
まず,光の形状による影響を調べるため,照射角の違いによる誘引性を評価した。その結果,コリメーターレンズで照射角を絞った狭角光源(10度)の方が広角光源(40度)の5倍以上のマイマイガを集めた。
また,背景の衝突板に夜光塗料を塗布すると,光源周囲が広くぼんやりと光るが,この状態では期待に反してガが捕獲されにくくなることがわかった。これらは,飛翔昆虫が明暗コントラストの強いエッジ付近を目指して定位とする,昆虫の走光性のメカニズムを説明する仮説のひとつ,エッジ注視仮説を支持するもの。
実際に,マイマイガは視覚的コントラストの強いオブジェクトや林縁に定位する習性を持つ。トラップの光源として,大型のガの誘引効果が最も高い発光ダイオード(380nm+490nm)を実装するとともに,その光源は狭角仕様(10度)とした。
大型のガは光源背後の衝突板に当たると,自重により返し付きの容器に落下するが,小さな昆虫は逃げることができる。また,電源はソーラーパネルにより,夏季の2ヶ月にわたる継続使用が可能だったという。
このトラップは収量の大きなトラップだが,仕様をコンパクトにすることにより,家庭用の害虫トラップにも応用できる可能性もある。北海道では11年周期で起こるとされるマイマイガ大発生が近づきつつあり,研究グループは,トラップの効果確認とともに,さらなる仕様のブラッシュアップが期待されるとしている。