京都大学と金沢大学は,青色LEDと,金属を含まない有機光酸化還元触媒によって駆動する転位反応を開発し,複雑なカルボニル化合物を自在に合成することに成功した(ニュースリリース)。
転位反応は通常の化学結合形成反応では実現困難な「分子構造の骨格組み換え」が行なえるため,複雑な生理活性天然物の全合成に古くから用いられてきた。中でも,「セミピナコール転位」は,α-ヒドロキシカルボカチオンを共通中間体とし,かさ高いカルボニル化合物を与える転位反応の一つとして知られている。
これまで,セミピナコール転位は,OH(ヒドロキシ)基が置換した炭素の隣の炭素にハロゲンなどの脱離基(LG)を持つ原料に対して強力な酸を作用させていた。しかし,この原料の合成が困難で,強い酸性条件に起因して官能基許容性が低い,といった問題点があった。したがって,複雑な生理活性天然物の全合成に応用するには,多工程に及ぶ基質合成や保護基の利用が必要不可欠だった。
研究グループは,青色LEDと有機光酸化還元触媒を活用することで,容易に入手可能なα-ヒドロキシカルボン酸誘導体がセミピナコール転位反応を起こすことを見出した。この研究の成功の鍵は,有機光酸化還元触媒により1電子移動を制御することで,カルボカチオン種を温和な条件下で発生させたことだという。
青色LED照射下,有機光酸化還元触媒がα-ヒドロキシカルボン酸誘導体に電子を1つ渡すことで,カルボン酸誘導体は分解して炭素ラジカルを与える。炭素ラジカルは電子1つを有機光酸化還元触媒に返すことでカルボカチオン種となり,セミピナコール転位が起こる。有機光酸化還元触媒が,原料の分解を介しながら電子を順序よく出し入れすることで,セミピナコール転位のトリガーとなるカルボカチオンの発生を可能にした。
この手法は40種類以上の複雑なかさ高いカルボニル化合物(ケトンやアルデヒド)の合成に適用可能。酸性条件で分解してしまう官能基も保持しながら,目的物を得ることができたという。
また,12員環や6員環のケトンと脂肪族カルボン酸から合成したα-ヒドロキシカルボン酸誘導体を基質として適用すると,出発原料から形式的に1炭素拡大した環状ケトンを得ることができた。
開発した手法は,容易に入手可能なα-ヒドロキシカルボン酸誘導体から,複雑なカルボニル化合物を温和な条件で供給することが可能。具体的には,強酸や電気化学的酸化などの反応条件が不要なため,保護/脱保護工程が不要など反応工程数の低減が可能となる。
この手法により,複雑なカルボニル化合物を迅速かつ高効率で供給することができる。研究グループは,有機光酸化還元触媒を利用しているため,環境に優しい合成技術として持続可能な社会の実現に貢献することも期待されるとしている。