京都工芸繊維大学の研究グループは,高速度カメラ,蛍光板付きマイクロチャンネルプレート,及び細い金属線を組み合わせることで,イオンクラウドの回転の鮮明な撮影に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。
近年の先進的なプラズマ物理学では,二流体プラズマモデルのように,プラズマに本来存在しているであろう電子プラズマの速度場や,イオンプラズマの速度場を取り込むようになってきている。
を測定する技術は,大きく分けると能動的計測法と受動的計測法に分類される。これらの分類においてこの研究の測定方法は,磁場によって閉じ込められた真空容器中のプラズマから十分離れた位置に,細い金属線(ワイヤー)を設置し測定するというハイブリットな測定技術になる。
プラズマが磁力線に沿って流れ出しに垂直なワイヤーを通過するとき,ワイヤーはプラズマを相対的にスキャンすることになる。プラズマが全体としの周りを回転している場合,ワイヤーでスキャンされた断面はプラズマが回転にしたがって回転を続ける。つまり,この面の回転運動を観測することができればの値を調べられる。
これと類似の手法は,長く連続した電子(e-)ビームが自己電場とによって×ドリフトの方向に剛体回転するような平衡状態の実験的な検証に用いられた。
実験では,検出器として蛍光板を使い,ワイヤーでスキャンされた面が蛍光板上に影として現れるため,フィルムカメラによって面の回転を撮影することができる。ワイヤーと蛍光板の距離を徐々に離していくと,それに応じてワイヤーから生じたスクリーン上の影が回転していき,電子ビームの回転を測定ができる。
研究では,純イオンプラズマに対して,ワイヤーによってスキャンした面の回転をうまく捉えることに初めて成功した。イオン密度は約1010~1012m-3であり,イオンデバイ長は約0.07m。これはBX-U装置に閉じ込められた純リチウムイオン(Li+)プラズマの軸長Lpおよび直径2aに相当する長さであり,このイオン粒子の集団はイオンクラウドと呼ばれる範疇に入るという。
イオンクラウドの質量は大きいため,磁力線に沿って流れ出るイオンクラウドの速度は電子プラズマより低くなる。実験では,BX-U装置内のマルチリング電極と蛍光板付きマイクロチャンネルプレートとの間に太さ1mmのワイヤーを設置し,蛍光板に映るワイヤーの影を高速度カメラによって撮影した。
この方法は,蛍光時間の短い別の蛍光体スクリーンを検出器として用いた場合に,電気的に非中性の二流体プラズマのを測定する手段となる可能性がある。研究グループは今後,この方法を用いて電気的に非中性の二流体プラズマの平衡と安定性の研究へ展開させるとしている。