名古屋工業大学,茨城大学,広島市立大学,日本原子力研究開発機構は,研究グループで開発・実用化した日本発「白色中性子ホログラフィー」を用いて,代表的パワーデバイス半導体材料である炭化ケイ素(SiC)の微量添加元素であるホウ素周辺の精密原子像取得に成功した(ニュースリリース)。
「白色中性子ホログラフィー」は,波長が原子サイズ程度の様々な波長をもつ中性子を試料に照射し,元素特有のガンマ線を観測することによって,100枚以上の異なる波長のホログラムを一度に測定できる手法。
この”多重波長ホログラム”を数値的に処理することによって,極めて精密な原子像を得ることができる。特に,水素やホウ素などの軽元素のイメージングに有効であることが実証されており,材料中の軽元素ドーパントの状態特定に期待されている。
パワー半導体として注目を集めているSiC(6H-SiC)の結晶構造は,一つの結晶サイトしかないシリコンのように単純ではなく,6つの異なる結晶サイトを有するより複雑な構造となっている。これらの半導体に機能性を持たせ動作させるためには,不純物(ドーパント)を微量添加させる必要がある。
SiCの6つのサイトのどこにホウ素が入るかによって,半導体としての性質が変わることが予測されているため,シリコンとは異なりドーパントのサイト制御も行う必要があり,より高度な結晶育成技術が要求されている。しかしながら,ホウ素や窒素などの軽元素のドーパントに対しては,適切な観測法がなく,どのサイトに入っているのか分かる手段がない状態だった。
研究グループは,「白色中性子ホログラフィー」を用いて,SiCの微量添加元素であるホウ素周辺の精密原子像取得に成功しした。その結果,6つある結晶サイトの2つにホウ素が優先的に侵入することが分かった。また,そのホウ素が近傍に不連続な界面を誘起することも分かった。
発見された特異構造は,X線回折や電子顕微鏡などの従来手法では発見できないもの。レアアースなどの希少元素を海外依存している日本では,豊富に存在している軽元素を添加して材料機能を強化する研究が,国家戦略の一つとして推進されている。
今回のパワー半導体に加え,革新畜電池や電気自動車モーターの磁石など,エネルギー関連の材料開発において軽元素の有効利用は重要なファクターとなる。研究グループは,このような観点から,今後,「白色中性子ホログラフィー」の役割はいっそう重要となり,新規材料開発に向けたブレークスルーに貢献することが期待されるとしている。