奈良先端科学技術大学院大学(NAIST),大阪大学,千葉大学,立命館大学は,自然光の変動の影響を大幅に軽減し,高精度に光の波長ごとの明るさを計測できる分光撮像技術を開発した(ニュースリリース)。
研究グループは,これまでに,高分解能分光計と回転ミラーシステムで構成される計測システムを製作し,400-2500nmの範囲において1nm以下の分解能での計測を可能としている。
ただし,このシステムは,画像の1画素ずつを順次計測する方式であるため,画像全体を計測するためには数時間程度を要する。また大規模な建造物を対象とする場合には,自然光下での計測となるため,天気や太陽高度などの経時変化の影響を受け,正しい計測ができないという問題があった。
そこで研究グループは,回転ミラーシステムが持つ柔軟な計測能力を活かし,分光撮像の際に1行ずつ画像全体を計測することに加え,垂直方向の計測を1列だけ追加することにより,撮像が自然光の変動から受ける影響を大幅に軽減する技術を開発した。
分光撮像の計測システムでは,画像の1画素ずつを順次計測する一般的な方式として,画像の1行ずつを走査線として順に走査する「ラスタスキャン」を行なうが,今回開発した手法ではこれに加え,ラスタスキャンの走査線と垂直な方向に,画像のどこか1列を走査する。1行あるいは1列だけの走査は数十秒程度しかかからず,この間に起こる自然光の変動はほとんど無視できる。
追加計測を行った1列では,変動の影響を受けた分光画像と,変動の影響を受けていない追加計測で,二重に計測が得られる。この2つを比較することで,ラスタスキャンを行なっていた間の自然光の変動を知ることができる。このようにして得られる変動の成分を分光画像から差し引くことで,変動の影響を補償した分光画像を得ることができるようになった。
研究グループはこの技術により,世界遺産である仏アミアン大聖堂のステンドグラスの分光撮像に成功した。この分光撮像技術により,災害などによる文化財の消失への備えとしての役割はもちろん,大聖堂に設置されたステンドグラスなどの貴重な文化財をあるがままで分光解析を行なうことが可能になるため,見た目では分からない組成に関する解析や,さまざまな歴史的資料の検証にも役立つことが見込まれるとしている。