神戸大学とAGCは,可視光によるクロロホルムの光酸化に成功した。また,その生成物を原料として,医薬品中間体やポリマー原料となる高反応性カーボネートやイソシアネートの合成に成功した(ニュースリリース)。
クロロホルムは高い化学的安定性,揮発性を持ち,汎用の有機溶媒として多くの有機化合物を溶解させることができる。
クロロホルムが分解すると,その分解物には人体に極めて有害なホスゲン,一酸化炭素,塩素,塩化水素などが含まれるが,例えばホスゲンはポリカーボネートやポリウレタンなどの合成樹脂の原料となるため,非常に有用でもある。しかし,クロロホルムを効率良く分解する方法は確立されておらず,分解物に含まれるこれらの化学物質を実用的な有機合成に利用した例はこれまでなかった。
研究グループは今回,可視光によるクロロホルムの光酸化に成功した。そして,その光酸化生成物が,医薬品中間体およびポリカーボネートやポリウレタンの原料となる高反応性カーボネートやイソシアネート合成に用いることができることを実証した。
具体的には,市販のガラス製フラスコに市販のクロロホルムを入れて,~2%の塩素を含む酸素ガスをそれに吹き込み,365nmLEDもしくは白色LED(波長400~750nm)ランプで外部から光照射を行なうことによって,クロロホルムを光酸化できることを発見した。そして,直接この溶液に,アルコールと塩基触媒を添加するとカーボネートが得られ,また,アミンと塩基触媒を添加するとイソシアネートが得られることを確認した。
また,工業的に重要な,ジフェニルカーボネートやフッ素化カーボネート,およびフェニルイソシアネートや3-(トリメトキシシリル)プロピルイソシアナートなど,ホスゲンを原料とする従来の化学品合成に適用できることを確認した。
この化学反応によって,安全・安価・簡単に、様々な汎用化学物質を合成できるようになり,また医薬品やポリマー材料の分子レベルでの高性能・高機能化が達成され,より独創性および新規性の高い高付加価値物質の開発に結びつくことが予想されるとする。また,大量生産を目的とする製造だけでなく,小中規模で多品種の生産を必要とする化学薬品製造メーカーにも,大きな恩恵が期待されるという。
研究グループは,今回の成果が低エネルギー・低環境負荷の新たな光化学反応として,カーボンニュートラルおよびSDGsに大きく貢献する科学技術となることが期待されるとしている。