名古屋大学と名城ナノカーボンは,大量生産可能なカーボンナノチューブ(CNT)として国内で製造される「MEIJO eDIPS」を用いて,インジウムスズ酸化物を用いない有機薄膜太陽電池を開発した(ニュースリリース)。
研究グループは,有機薄膜太陽電池のインジウムスズ酸化物透明電極の代わりに,CNT薄膜透明電極を用いる研究を行なってきた。これまで海外製のドライプロセスにより成膜されたCNT薄膜を使ってきたが,今回,大面積化と大量生産に有利な,国産のウェットプロセスにより成膜されたCNT薄膜を用いて,有機薄膜太陽電池を作製した。
工場で製造されるCNT粉末を溶媒に分散させ,ガラス基板上にスプレーコートすることにより,CNT薄膜が形成される。この上に,有機半導体材料を塗布・成膜し,最後に裏面電極となるアルミニウム金属を真空蒸着して有機薄膜太陽電池を作った。
電圧を変えながら光電流を測定してエネルギー変換効率を算出したところ,ウェットプロセス成膜によるCNT薄膜を透明電極として用いた有機薄膜太陽電池で最高となる,4.93%の光エネルギーが電気エネルギーに変換されることがわかった。この有機薄膜太陽電池の断面を調べたところ,透明電極となる薄いCNT膜の上に,有機半導体層と裏面電極が成膜されていることがわかった。
スプレー塗布により成膜されたCNT薄膜には,少量の電荷キャリアが残存していると言われているが,CNT薄膜を酸に触れさせることにより,プロトン(H+)を結合させ,これによりCNTに正孔を注入した。酸添加後のイオン化ポテンシャルを光電子収量測定により測定したところ,イオン化ポテンシャルが深くなっていることを確認し,正孔が注入されていることを確認した。このようにして,CNT透明電極は,正孔を効率良く捕集して輸送できるようになる。
今回適用した方法は,CNTの粉末さえあれば,それを溶媒に分散させてスプレー塗布して,有機薄膜太陽電池の電極を形成でき,MEIJO eDIPS以外のCNTも使用可能であることを示しているという。これにより,透明電極の大面積化が容易となり,研究グループは,有機薄膜太陽電池の商業化と大量生産に弾みが付くとしている。