兵庫県立大学,東京大学,独Helmholtz-Zentrum Berlinらは,コバルト酸化物GdBaCo2O5.5の薄膜における磁気構造の超高速な変化を,軟X線の反射率の磁気円二色性と共鳴磁気回折の時間分解測定により観測に成功し,反強磁性であった薄膜が強磁性となり,磁化が増加するというスピンのダイナミクスを明らかにした(ニュースリリース)。
スピントロニクスでは,スピンの操作により,超高速でエネルギー効率のよいデータ処理が可能となることが期待されており,超短パルスのレーザーを用いたスピン操作が不可欠となっている。
レーザー照射を磁性体に行なう研究としては,強磁性体の磁化を消す「消磁」が主であり,レーザー照射によって磁化を増やし強磁性を作り出す研究は,ほとんど行なわれていなかった。ところが最近,温度上昇によって反強磁性(低温)から強磁性(高温)に転移する性質を持つ鉄ロジウム合金で,レーザー照射により反強磁性―強磁性転移が実現された。
今回研究グループは,このような現象を合金でなく酸化物薄膜で実現したいと考え,鉄ロジウム合金同様の反強磁性から強磁性への転移があるコバルト酸化物GdBaCo2O5.5の薄膜に対して,レーザー照射によって強磁性の実現を試みた。
軟X線時間分解測定はドイツの放射光施設BESSY IIで行なった。測定に用いたコバルト酸化物の薄膜を5mm×5mmの基板上に膜厚35nmで作製し,軟X線時間分解測定を行ない,磁化の時間変化の様子を観測した。
3種類のレーザー強度の照射結果,どの場合もレーザー照射(0秒)の後,磁化が増える様子が見られた。この結果より,コバルトのスピンの光励起状態のイメージ図が得られた。反強磁性状態に対するレーザー照射により,水平軸方向の磁化が増大した。このように,コバルト酸化物の薄膜において,超高速な強磁性の実現に成功した。
この研究により,反強磁性であった酸化物薄膜がレーザー照射で強磁性になることを明らかにするとともに,ピコ秒スケールで超高速なスピン操作が可能であることを示した。研究グループは,この方法は超高速で行なえるため,今後の光を利用したスピン操作やさまざまな物質の研究を通じ,それを応用した次世代の光素子の開発につながることが期待されるとしている。