理化学研究所(理研)と琉球大学病院は,医師がX線被爆することなく,カテーテルなどを用いた血管内治療の手術トレーニングを行なえるシステムを開発した(ニュースリリース)。
カテーテル手術では各種の血管モデルが開発され,トレーニングに用いられているが,従来のトレーニング法では実際の治療と同様にX線透視が必要なことから,医師の被曝が避けられなかった。
白色光源とビデオカメラを用いたトレーニングシステムも開発されているが,実際の治療に用いる奥行きのないX線透視の影絵における操作に比べると操作が容易という問題がある。そこで研究グループは,実際の血管内治療と同等の映像を提示し,かつX線を用いないトレーニングシステムの開発を目指した。
研究グループは血管の形状を再現し,X線を用いない透かし撮りを可能にするため,透明な血管モデルを用意した。また,造影剤による血管経路の再現と血管内に挿入するカテーテルなどの器具を表現するために,特定の波長の光を吸収して別の波長の光を発する「蛍光色素」を使用した。
可視光域の蛍光色素と光源,高感度カメラと波長選択フィルターからなる撮影システムを採用。血管モデルには,可視光域で透明な樹脂を選定し,液体に浸した状態で撮影することで光の屈折の影響を低減させた。また,造影剤には液体の蛍光色素を用い,ガイドワイヤー,カテーテル,バルーン,ステントにも同じ波長の蛍光色素を塗布することで,血管内と器具の特定の部位だけを蛍光発光させるようにした。
その結果,対象物の距離に由来する陰影が少なくなり,X線透視による奥行き方向の情報がない映像と同様の効果を得ることができた。さらに,撮影画像に対して,輝度の反転,造影剤流入時の画像の記録と重畳表示,画像の差分表示などをリアルタイムで処理できる画像処理機能を持たせた。
これらの機能の組み合わせにより,血管内治療で用いられる,血管の走行を示すルート表示やロードマップなどのDSAの機能を実現したX線透視撮影に近い「非被爆血管内治療シミュレータ」の開発に成功した。画像処理部にはグラフィカルユーザーインターフェースを実装し,一般的なパソコンでもDSAを摸したカテーテル治療のトレーニングができる。現在,縦横60cmの場所に設置できる大きさだが,さらなる小型化も可能であり,また従来法に比べてはるかに安価だという。
研究グループは,被曝の心配なく血管内治療の練習ができるようになることで,治療の安全性の向上につながるとしている。