浜松ホトニクスは,極微弱の磁気を計測できる超 伝導量子干渉素子(Superconducting Quantum Interference Device:SQUID)と同等の超高感度ながら,液体ヘリウムで冷却する必要のない長寿命の光ポンピング磁気センサ(Optically Pumped Magnetometer:OPM)モジュールを開発した(ニュースリリース)。
OPMは,感度領域内の偏光の度合いを検出し磁場を計測する超高感度の磁気センサ。
脳の神経疾患の診断では,脳で発生する微弱な磁場を計測する脳磁計が利用されている。脳磁計では現在,地磁気の約10億分の1と極微弱の磁気を計測できる磁気センサであるSQUIDが用いられているが,液体ヘリウムによる冷却装置が必要で脳磁計全体が大型になる。また,液体ヘリウムの定期的な補充などランニングコストの課題もあり,診断現場での普及が進んでいない。
開発品は,ガラス容器や光源,光学部品,光検出器などをコンパクトに一体化したOPMモジュール。今回,ガラス容器内にアルカリ金属とガスを高密度に封入し感度を高めることに成功した。また,ガラス容器の内側にコーティングを施し,アルカリ金属とガスの密度を保つことで時間経過による感度の低下を抑えた。さらに,独自の製造技術で構成部品をコンパクトにまとめることで,SQUIDと同等の高感度ながら冷却が必要ない長寿命のOPMモジュールの開発に成功した。
OPMの仕組みは以下の通り。①励起用レーザーでアルカリ金属の電子スピンの向きを揃える。②計測対象の磁場によりアルカリ金属の電子スピンが傾く。③計測用レーザーを入射する。④電子スピンの傾きの影響を受け,計測用レーザーの偏光が変化する。⑤偏光の変化の度合いを検出することで磁場を計測する。
特長として,冷却不要で超高感度,長寿命であるほか, 脳や脊髄などの計測対象に応じ,モジュールの外部からコイルで磁場を与え電子スピンの回転速度を変化させることで,計測できる周波数の帯域を切り替えも可能。
この開発品を応用することで,脳磁計の小型化,低コスト化が期待できる。また,脊髄の異常箇所を測定する脊磁計の実用化も期待されるとしている。