東大,スピン軌道相互作用でフラットバンド化発見

東京大学の研究グループは,強いスピン軌道相互作用によって,固体中の電子のエネルギーバンド構造が平坦化する現象であるフラットバンドを発見した(ニュースリリース)。

スピン軌道相互作用は,電荷の移動とスピンの磁性を連動させる相対論的な相互作用。固体中で生じる様々なスピン依存伝導現象や,スピントロニクス技術に不可欠な相互作用で,これまで主に質量が軽いp軌道の電子などからなる半導体において研究されてきた。

これらの系では,半導体に強い面直電場をかけることによって人工的にスピン軌道相互作用を導入することができ,その結果,エネルギーバンドにおけるスピンを偏極させてスピンの向きに応じて電荷の流れが変わるような効果が観測されている。

一方で,原子そのものの質量が重いために生じるスピン軌道相互作用で,エネルギーバンド構造が劇的に変化する効果は,これまで数例しか知られていなかった。研究は,遷移金属酸化物CsW2O6においてタングステン原子(W)の強いスピン軌道相互作用が,物質のエネルギーバンドをフラット化する効果を理論的に発見した。

通常のエネルギーバンドの形状はスピンには依存しないが,今回研究グループは,強いスピン軌道相互作用によってバンドがスピンに依存して大きく形状を変え,完全にフラット化する場合があることを理論で厳密に証明した。

CsW2O6のモデルであるパイロクロア格子の上では,スピン軌道相互作用によって電子が伝搬しながら回転する。その結果,波動関数がスピンの向きに依存した量子干渉を起こして波長の情報を失うのがフラットバンドの起源となる。

フラットバンドと電子間のクーロン相互作用とが協力し合い,電荷がパイロクロア格子の四面体のうち三角形のユニットにだけ分布した相も生じた。この相は2020年に実験的に発見されたアンダーソン条件を満たす新しい電荷秩序相と考えられるという。

今回のフラットバンドは発現機構そのものが新たな発見であると同時に,フラットバンドで実現する量子相がこれまでにない磁気的な性質を秘めている可能性を示唆すもの。研究グループは今後,理論の結果を実験で検証することによって,新たな性質が明らかになっていくことが期待されるとしている。

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