日本電信電話(NTT)は,高出力レーザーの照射によってアスベスト(石綿)を繊維形状から球形状に変形できることを確認し,さらに,回折光学素子(DOE:Diffractive Optical Element)を用い,レーザー照射に伴うアスベスト粉塵の飛散を抑制する技術を開発した(ニュースリリース)。
アスベストは建築物等の断熱材として広く使用されてきたが,ヒトが吸い込むと肺がんや悪性中皮腫等を引き起こす問題が広く知られるようになり,現在では多くの国において使用が禁止されている。
アスベストが有害である主な理由は,その極めて細く尖った形状であると考えられ,人体に吸入されると肺胞に沈着しやすく,長期にわたり肺の組織が傷つけられて遺伝子異常が起こり,細胞ががん化する可能性が指摘されている。
そのため,老朽化した建築物の解体に伴うアスベスト除去は年々増加しているが,電動工具をはじめとする現状のアスベスト除去ツールは有害な粉塵を周囲に飛散させるため,作業者や作業現場周辺をアスベスト粉塵のばく露から守る防護を必要とする。このようなばく露リスクを根本的に回避するには,有害な粉塵を無害化するアスベスト除去技術が求められている。
高出力レーザーはその照射点でアスベストを熱融解により形状を変更させることが期待されていたが,同社はレーザー照射実験を行ない,アスベストの形状が変化することを世界で初めて確認した。
さらに,回折光学素子を用いて,アスベスト含有塗材に照射する高出力レーザーのパワー密度とビーム形状の制御を行なうことで,レーザー照射時の粉塵量の抑制にも成功した。
具体的には,回折光学素子でレーザー光をベッセルビームに成形し,レーザー照射時に発生する粉塵の飛散量を大幅に抑制することで,アスベスト粉塵のばく露リスクをさらに低減した。
同社では,10kW級の高出力レーザーに対応した回折光学素子を低廉材料であるシリコンで実現しており,アスベスト無害化のためのレーザー照射装置の低コスト化が可能。また,回折光学素子を用いることで,レーザー照射部分(レーザーヘッド)を軽量且つ小型化することができ,狭い場所や天井などの従来工法では除去しにくい場所にも持ち込むことが可能になるという。
同社は今後,回折光学素子を用いて,光ビームの照射範囲を拡大することで,アスベスト含有塗材をできる限り短時間で無害化して除去できる技術や,レーザー光を直線形状にすることで,アスベストを含む建材を安全且つ効率的に切断する技術の検討を行なうとしている。