北九大ら,ナノチューブ光電極の局所反応を可視化

著者: sugi

北九州市立大学と金沢大学は,電気化学イメージングに特化したプローブ顕微鏡を用いて,微細構造を持つ半導体光電極の電荷分離機構を明らかにした(ニュースリリース)。

半導体電極を用いた光電気化学的な水分解反応は,太陽光エネルギーを利用したCO2フリーの水素製造法として注目されている。

円筒形状のナノ構造TiO2が配列したナノチューブアレイは表面積が大きく,電子伝導性が高いため,水分解に有効な半導体光電極となる。TiO2ナノチューブ電極は高い光電変換効率を示すことから,電荷キャリアの効率的な分離が進行していると考えられるが,分析技術の課題から,その電荷分離機構や触媒反応部位については十分に理解されていなかった。

研究グループは,開発した走査型電気化学セル顕微鏡(SECCM)を使用して,Ti繊維上に成長したTiO2ナノチューブアレイの局所的な光電気化学特性を調べた。通常の光電気化学測定は電極全体の電流を計測しているのに対し,SECCMはナノピペットを利用して,微小な液滴状の電気化学セルを試料表面に形成することで,微細領域の光電流のみを局所的に分析できる。

そのため,水分解反応が生じている触媒反応部位を可視化することができる。さらに,プローブをホッピングさせながら走査することで,数マイクロメートルの凹凸構造をもつ電極試料でも計測できるように改良した。

SECCM観察の結果,局所的な光電流が高い領域と低い領域が存在する一方で,TiO2ナノチューブの上部と側面における光電流値には大きな差がないことが明らかとなった。この結果は,TiO2ナノチューブ光電極における電荷分離機構が直交型であることを実験的に初めて示したもの。

この電荷分離モデルは,TiO2ナノチューブの長軸方向に沿って光励起電子が長距離輸送されるものであり,それに直交する形で光生成正孔は表面に拡散するため,再結合による損失が低減されて高い光電流応答が発現する。

この電荷分離モデルは,PbO2粒子の光電気化学的な析出反応によっても裏付けられた。PbO2粒子の析出位置は正孔による水の酸化反応部位を可視化しており,チューブの内壁と外壁の両方に析出していることから,短軸方向に正孔が拡散していることがわかるという。

半導体光電極の性能を向上させるために必要とされる助触媒や光増感剤による表面修飾の効果を最適化するうえで,局所的な反応場の理解が役立つ。研究グループは,さまざまなナノ構造半導体光電極の光電流特性を微細領域で理解できるため,材料設計の最適化が加速され,光電気化学的な水分解反応の高性能化につながるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 京大ら,深赤色から近赤外光で作動する有機触媒反応を開発

    京都大学と東和薬品は,深赤色から近赤外光(波長600〜800nm)で作動する有機触媒反応の開発に成功した(ニュースリリース)。 光を利用した化学反応(光触媒反応)は,環境負荷が低く選択的な有機合成法として注目を集めている […]

    2025.11.07
  • 京大ら,電子効率を大きく高めた光触媒構造体を形成

    京都大学,シンガポール国立大学,シンガポール南洋工科大学,シンガポール材料技術研究所は,電子移動を最適化した共有結合性有機構造体(COF)を用いて,光の利用効率を大きく高めた光触媒活性COFの形成に成功した(ニュースリリ […]

    2025.09.03
  • 阪大,光学材料に適したヘテロ[8]サーキュレンを合成

    大阪大学の研究グループは,入手容易な市販原料であるアニリン,キノン,ナフトール類を用いて電解合成を行なうことで,世界で初めて簡便・安全・低コストな非対称ヘテロ[8]サーキュレン骨格の構築に成功した(ニュースリリース)。 […]

    2025.08.28
  • 北大,水素とナノファイバーを合成する光触媒を開発

    北海道大学の研究グループは,金属錯体色素を複層化した光触媒ナノ粒子とアルコール酸化触媒分子を連動させることで,持続利用可能な資源であるセルロースからクリーンエネルギー源となる水素と高機能材料となるセルロースナノファイバー […]

    2025.08.28
  • 新潟大,光透過性に優れた光酸素発生アノードを開発

    新潟大学の研究グループは,高効率・高安定性を有し,光透過性に優れたメソポーラス酸化タングステン(WO3)光酸素発生アノードの開発に成功した(ニュースリリース)。 エネルギー・環境に対する世界的な関心が高まる中,水素は将来 […]

    2025.08.26
  • 岐阜大,低温で異なる結晶型の酸化チタンを作り分け

    岐阜大学の研究グループは,光触媒材料として広く知られる酸化チタン(TiO2)に注目し,同じチタンの原料溶液を用いながら,温度だけを変え、80℃以下の低温で異なる結晶型の酸化チタンを選択的に作り分ける化学合成手法を確立した […]

    2025.08.08
  • 科学大,酸フッ化物光触媒のナノ粒子化を実現

    東京科学大学の研究グループは,特殊な無機材料である酸フッ化物をナノ粒子として合成する手法を確立し,これを光触媒として用いることによって,可視光のエネルギーで水から水素を生成する反応の効率を,従来の約60倍にまで高めること […]

    2025.08.01
  • 神大ら,光触媒の性能を予測できる機械学習を開発

    神戸大学と奈良先端科学技術大学院大学は,太陽光と水からCO2フリー水素を製造できる光触媒の性能を,少数データから予測できる機械学習モデルを開発した(ニュースリリース)。 太陽光と水からCO2フリー水素を製造できる光触媒は […]

    2025.07.09
  • オプトキャリア