岡山大ら,高臨界温度のスピン三重項超伝導を発見

著者: sugi

岡山大学と中国科学院は,遷移金属Crを含む物質K2Cr3As3が6.5Kというかつてない高い臨界温度でスピン三重項超伝導を実現していることを発見した(ニュースリリース)。

既知の超伝導体はほとんどスピン一重項状態にある。これには銅酸化物高温超伝導体や鉄砒素高温超伝導体も含まれる。一方,液体ヘリウム3で起きている超流動は,原子対(クーパー対)を構成する2つのスピンが向きの揃った,スピン三重項状態にある。

ヘリウム3の固体版であるスピン三重項超伝導体の探索は,電子間のクーロン相互作用が強い強相関電子系において行なわれてきた。しかし,数個の候補が上がったものの,確実なものはなかった。また,これらの候補の超伝導転移温度が絶対温度1度(1K)程度と低く,測定が困難だった。

研究グループは,遷移金属クロム(Cr)を含む化合物K2Cr3As3に注目。遷移金属であるクロムは3d電子間の相互作用が強い。研究グループはこの相互作用が鉄と同じく強磁性的であることを突き止めている。すなわち,3d電子スピンが向きを揃えようとする傾向は,超伝導のバックグラウンドで働いている。

液体ヘリウム3でも似たような相互作用が働いており,超伝導が起きると,エネルギーギャップが開くが,K2Cr3As3におけるギャップもヘリウム3に似ており,ギャップが開かない場所があることを研究グループは明らかにした。ギャップが開かない場所は,地球の北極点と南極点に相当する。

今回,研究グループはK2Cr3As3の単結晶を作製し,核磁気共鳴法によってスピン磁化率を測定した。その結果,磁場を結晶のc軸に平行に印加したときにのみ超伝導状態でスピン磁化率が減少し,その他の方向では減少しないことを発見した。これはスピン三重項超伝導の最も直截的な証拠だという。

また,群論解析から,超伝導を担う電子対の軌道関数が液体ヘリウム3と同じくp波(px+ipy)であることを明らかにした。このような状態はトポロジカル的に非自明で,その表面や磁束の中心の電子状態が量子計算など次世代の産業への応用が期待できる。

スピン三重項超伝導体は上部臨界磁場が高く,大電流を流しても,その電流が発生する磁場によって超伝導状態が壊れない。そのため,スピン三重項超伝導体は送電線に適する。さらに,スピン三重項超伝導は,その波動関数にメビウス帯のような「ひねり」があって,表面や磁束の中心の電子状態(マヨラナ励起)は散乱に強い。そのため,次世代のトポロジカル量子コンピュータへの応用が期待されるとしている。

キーワード:

関連記事

  • 東北大ら、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱による磁区識別法を開発

    東北大学、早稲田大学、大阪公立大学は、円偏光を用いた共鳴非弾性X線散乱(RIXS)による新たな磁区識別法を開発した(ニュースリリース)。 交替磁性体は全体としての磁化がゼロでありながら、スピンの分極した電子バンドを持つた…

    2025.11.26
  • 京大,スピン歳差運動をテラヘルツ光で読み出す技術を開発

    京都大学の研究グループは,強磁性体におけるスピン(磁化)歳差運動の情報を,テラヘルツ(THz)光の偏光回転として直接読み出すことに成功した(ニュースリリース)。 近年,情報処理技術の高速化と省電力化を目指し,電子のスピン…

    2025.11.06
  • 京大,磁化歳差をテラヘルツ光で読み出す技術を開発

    京都大学の研究グループは,強磁性体におけるスピン(磁化)歳差運動の情報を,テラヘルツ(THz)光の偏光回転として直接読み出すことに成功した(ニュースリリース)。 従来,磁化の超高速ダイナミクスの検出には,磁気光学効果やT…

    2025.10.30
  • ノーベル物理学賞、量子トンネル効果などの基礎を築く

    2025年のノーベル物理学賞は,ジョン・クラーク氏(カリフォルニア大学バークレー校),ミシェル・H・ドゥヴォレ氏(エール大学ほか),ジョン・M・マルティニス氏(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)の3氏に授与されることが…

    2025.10.07
  • 北大,光の回転が物質を動かす仕組みを解明

    北海道大学の研究グループは,光が物質に与える,回転の力(光トルク)の源である角運動量を,スピンと軌道の二つに分け,それぞれの損失量を個別に測定・解析できる新たな理論を提案した(ニュースリリース)。 光には,まっすぐ進むだ…

    2025.06.10
  • 東北大ら,高輝度放射光で超伝導体中の電子振動解明

    東北大学,量子科学技術研究開発機構(QST),兵庫県立大学,産業技術総合研究所,物質・材料研究機構は,−163℃で超伝導を示す銅酸化物超伝導体のプラズマ振動の性質を解明した(ニュースリリース)。 超伝導とは,ある特定の温…

    2025.05.14
  • 東北大ら,反磁性体だが磁性を持つ薄膜を放射光分光

    東北大学,高エネルギー加速器研究機構,量子科学技術研究開発機構,台湾同歩輻射研究中心,仏ロレーヌ大学,仏SOLEIL放射光施設は,クロムを含む反強磁性体Cr2Se3に着目し,分子線エピタキシー法によってグラフェン上にCr…

    2025.04.22
  • 京大ら,光電流の計測によりスピンの読み出しを実現

    京都大学,量子科学技術研究開発機構(QST),電力中央研究所は,4H型炭化ケイ素(SiC)結晶中の原子の抜け穴に存在する一つの電子スピンの情報を,光照射により発生する光電流の計測(PDMR法)によって,室温下で電気的に読…

    2025.04.21

新着ニュース

人気記事

新着記事

  • オプトキャリア