東京工業大学,東京大学,理化学研究所は,磁性を担う元素が三角格子をなす新しい磁性半導体を開発し,磁気秩序温度よりもはるかに高温から巨大な異常ホール効果を発現させることに成功した(ニュースリリース)。
少数のキャリアによる電流の流れ方とスピンの並び方が互いに関係した磁性半導体は,これまでも盛んに研究が進められてきたが,そのスピンの並び方は単純な強磁性・反強磁性状態に限られていた。
一方,近年スキルミオンに代表されるような,スピンが非共面的に並んだトポロジカルな磁気秩序構造に注目が集まっているが,そうした構造に関連する伝導特性の研究は大量のキャリアを持つ金属に限られてきた。そこで研究グループは,スピン配置に強く影響する格子構造に着目して,磁性半導体の研究を開始した。
研究グループは,希土類元素であるユウロピウムが特徴的な三角格子を形成しているヒ化ユウロピウム(EuAs)に着目し,分子線エピタキシー成長によるEuAs単結晶薄膜の作製に成功した。
系統的な測定の結果,EuAsが①低いキャリア密度,②強い交換相互作用,③有限のスピンカイラリティという,巨大な異常ホール効果の実現に必要な三拍子が揃った稀有な材料であることを発見した。
さらに,理論計算が予測する通り,異常ホール効果により電流が曲げられる割合を示す異常ホール角が0.1を超え,この巨大応答が磁気秩序温度よりもはるかに高い温度から現れることを明らかにした。
この成果は,これまで単純な強磁性・反強磁性状態が研究対象とされてきた磁性半導体において,スピンが非共面的に並んだ磁気秩序構造が異常ホール応答の巨大化に有効であることを示すもの。
研究グループは,今後,元素置換や電界効果によるキャリア制御の研究や,より高い磁気秩序温度を持つ材料の開拓によって,巨大な磁場応答を持つ半導体デバイスの利用の実現が期待されるとしている。