東大ら,大規模光量子コンピュータの基幹技術開発

日本電信電話(NTT),東京大学,理化学研究所は,ラックサイズの大規模光量子コンピューター実現の基幹技術である,光ファイバー結合型量子光源(スクィーズド光源)を開発した(ニュースリリース)。

量子コンピューターは,重ね合わせ状態と量子もつれ状態という量子力学特有の現象を利用した超並列計算処理が可能なことから,世界各国で研究開発が進められている。

さまざまな方式の中でも,光の量子である光子を用いて計算する光量子コンピューターは,他の方式で必要とされる冷凍・真空装置が不要で,時間的に連続的な量子もつれ状態を作ることで,集積化や装置の並列化なしに量子ビット数をほぼ無限に増すことができるという利点がある。

加えて,光の広帯域性を生かした高速な計算処理も可能。さらに,1つの光子で量子ビットを表すのではなく,多数の光子で量子ビットを表す手法を用いれば,光子数の偶奇性を用いた量子誤り訂正ができることも理論的に示されている。

この方式は光通信技術とも親和性が高く,通信波長帯の低損失な光ファイバーや光通信で培われた高機能な光デバイスを用いることができ,実機構築に向けた飛躍的な発展が期待されている。

しかし,この光量子コンピューターにおいて量子性の源となるスクィーズド光は生成が難しく,これまで光通信波長帯で動作する光ファイバー結合型の高性能な量子光源が存在しなかった。スクィーズド光は偶数個の光子流であり,かつ量子ノイズが圧搾された特殊な状態の光で,量子もつれ状態生成の源となる。

また,光子数の偶奇性を利用することで量子誤り訂正が可能になることから,スクィーズド光は量子誤り訂正においても極めて重要な役割を担う。これらの実現には多光子成分においても偶数性を保ち,高い量子ノイズ圧搾率を有する光が必要。例えば大規模量子計算を実行できる時間領域多重の量子もつれ(2次元クラスター状態)の生成には,65%を超える量子ノイズ圧搾率が求められる。

今回,光通信波長で動作する低損失な光ファイバ接続型量子光源モジュール(光パラメトリック増幅モジュール)を新たにに開発し,光ファイバー部品に閉じた系で,6THz以上の広帯域にわたって量子ノイズが75%以上圧搾された連続波のスクィーズド光の生成に世界で初めて成功した。

これは光量子コンピューターにおける基幹デバイスが,光の広帯域性を保ったまま光ファイバーと相互接続性のある形で実現できたことを意味する。研究グループはこの成果により,安定的かつメンテナンスフリーな,ラックサイズの光量子コンピューター開発が可能となるとしている。

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